2008-08-01から1ヶ月間の記事一覧

北原白秋と敵対することになってしまった菊池寛の新聞小説『眞珠夫人』(「東京日日新聞」大正9年6月9日)が、倉庫から出て来たので見てみよう。開くとパリパリと崩れてしまいそうな本物の新聞だ。

『真珠夫人』(しんじゅふじん)は、1920年(大正9年)の6月9日から12月22日まで「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」に連載された。内容は、大正時代、男爵令嬢、唐澤瑠璃子は敵の罠にはめられた父を救う為、泣く泣く卑しい高利貸しの荘田勝平の妻となるが、…

円本全集はあまりにもたくさんの全集がでたので、多かれ少なかれ、どの全集もよく似た企画の他社本との争いがあった。中でも最も烈しく戦ったのが、北原白秋が編集するアルス刊行『小学生全集』二冊セット函入りで1円と、菊池寛編集の興文社、文藝春秋社刊行『日本児童文庫』1冊35銭だろう。その烈しい争いの序盤戦となる広告の一部をご覧下さい。

装丁:恩地孝四郎、『日本児童文庫』(アルス、昭和4年)二冊セット函入り (左)装丁:田中良、『小学生全集』(興文社、文藝春秋社、昭和4年) (右)装丁:加藤まさを『小学生全集』(興文社、文藝春秋社、昭和2年)。1冊毎に装丁家が変わり、それだけで…

挿絵:伊東深水、武者小路実篤『母と子』(東京朝日新聞、昭和2年4月)

大正13年、高畠華宵(36歳)と講談社との間で画料問題がこじれ、いわゆる「華宵事件」が起こる。その後華宵は講談社の雑誌への執筆を断り、「日本少年」(実業之日本社)に執筆を開始。多くの少年読者が華宵目当てに「少年倶楽部」から 「日本少年」へと移っ…

折角購入した東京朝日新聞縮刷版なので、もう少し眺めてみよう。昭和初期に1冊1円の全集が爆発的に売れて、全集の大ブームを作った。その火付け役になったのが、改造社が刊行した『現代日本文学全集』で、これはその新聞広告だ。その後、続々と刊行された全集も新聞紙面を使った広告を打ち、派手な広告合戦が展開され、出版史上をにぎわした。

1926年に改造社が募集した『現代日本文学全集』(63巻,菊判)は,約23万セットという予約をとった。新潮社の『世界文学全集』の第1回配本である『レ=ミゼラブル』は50万部を超えたという。平凡社刊行の『現代大衆文学全集』は25万部の予約を獲得した。江戸川…

今までは、新聞小説の部分だけを切り抜いたスクラップ帖などを集めていたが、新聞小説の挿絵を集めるなら、新聞の縮刷版を入手すればいいのではないかと思い立ち、早速数冊購入してみた。今回入手した「東京朝日新聞縮刷版第94号」(昭和2年4月号)には、挿絵:小田富彌、木村毅「島原美少年録」第42回〜67回と、挿絵:伊東深水、武者小路実篤「母と子」第39回〜67回が掲載されていた。

挿絵:小田富彌、木村毅「島原美少年録」 挿絵:小田富彌、木村毅「島原美少年録」 挿絵:小田富彌、木村毅「島原美少年録」 新聞縮刷版の多くは1年分とか数十年分とかで販売されていることが多く、高いものでは数百万円の値がついているので、驚かされる。…

武蔵野美術大学資料図書館(小平市小川町1-736)で開催されている、描き文字装丁家として知られる田村義也の装丁展「背文字が呼んでいる」を観てきた。前期2008年8月4日〜23日、後期2008年9月8日〜20日。休刊日=日曜日。入場料無料、(撮影は禁止だが、今回は特別に許可を頂き撮影してきた。盗撮ではありません)

個人の装丁展としては、私が知る限りでは最大規模の展示会だ。総数1600点だったとおもう。壁面には本棚の映像が映し出され、一点ずつ取り出して、装丁の画像を見せてくれる。 デジタル化されてしまった今では殆ど観られなくなってしまった版下や下絵、校正刷…

盆休みを利用して白根山、草津温泉、伊香保夢二美術館、榛名湖を1泊してドライブしてきました。

白根山 山頂の火口に出来た湖、駐車場からは15分ほどの登山でしかないが、硫黄のにおいがしていて、息が切れた。 白根山 下り坂のカーブを運転していると、雲海に飛び込んでしまいたくなるような誘惑に誘われる。絶景といっても好い。遠景の高い山が写真には…

前回あれだけ掲載したのに、鞍馬天狗の絵はまだまだある。今回もバラエティにとんでいて、眺めているだけでも十分に楽しい。所有するともっと楽しい。

装画:玉井徳太郎、大佛次郎『鞍馬天狗』(河出書房、昭和29年)函。 挿絵:佐多芳郎、大佛次郎『鞍馬天狗』(河出書房、昭和29年) 装画:山下秀男、いいだもも『帰ってきた鞍馬天狗』(現代書林、1979年) 山下秀男さんは、現在は九州の某大学の教授になっ…

大佛次郎自身も『鞍馬天狗 第十巻』(中央公論社、昭和44年)「あとがき」に鞍馬天狗誕生話をこのようにつづっている。

「『鬼面の老女』は博文館から出ていた雑誌『ポケット』に読み切りの短編として書いた。私がまげ物の小説を書いたのは、これが二度目で、その前はポオの『ウィリアム・ウィルソン』の翻案だったから、二作目のこの方が処女作と言ってもよい。一度だけでやめ…

「鞍馬天狗」は大正13年に『ポケット』(博文館)へ「鬼面の老女」を発表していらい、「鞍馬天狗 地獄太平記」まで、長短合わせて37本もの天狗がある。

「『鞍馬天狗』は関東大震災が原因となって誕生した。つまりそれをきっかけに外務省とも縁を切った大佛次郎が、糧道をつけるためにマゲモノを書いたのが「隼の言辞」、つづいて「鬼面の老女」だったわけだが、鞍馬天狗の名前はもちろん謡曲の『鞍馬天狗』か…

長年にわたって書かれてきた鞍馬天狗だけあって、多くの挿絵家たちが、それぞれの鞍馬天狗を描いている。

伊藤彦造、ペーター佐藤、横尾忠則、井川洗崖、古家苔軒、村上豊、鰭崎英朋、岩田専太郎、小田富彌、斉藤五百枝、斉藤五百枝、合計11人の描いた挿絵ですが、こうして一同に並べてみるとなかなか荘厳ですね。 装画:伊藤彦造、大佛次郎『鞍馬天狗 角兵衛獅子…

オブジェ制作:大貫伸樹「仲間入り」

「こうして、飛ぶんだよ」 「もうこれ以上、低くできないぞ!」 「あっ、飛べたぁ〜!!」 兄や姉の遊びの仲間入りが出来た記念的な瞬間です。

年間30冊の表紙に使われている小枝を使ったオブジェが、判例タイムズ社のショウウインドウに飾られています。

オブジェ制作:大貫伸樹 一番右のオブシェは、既に表紙に使われましたが、中央と左のオブジェはこれから登場する予定のものです。中央のオブジェの高さは約60センチくらいです。これを10日に1体ほど、毎号創って、撮影してデザインするんですから、結構大変…

挿絵のはなしを書こうとして、鞍馬天狗を集めていましたが、村上光彦『大佛次郎─その精神の冒険』(朝日選書92、1977年)を読んで、その内容の深さを知り、とうとう全巻読んでみたくなってしまった。

「鞍馬天狗」は博文館の講談雑誌「ポケット」大正13年5月号に雑誌の「心棒」として《幕末秘史・怪傑「鞍馬天狗」──第1話・鬼面の老女》と、特別の待遇を受けて始まり、15年12月号まで連載された。その後、さまざまなところに連載を続け、最終的には昭和40年1…

岩田専太郎自らが描いた、横溝正史『夜光蟲』を例にとって、挿絵の描き方の極意を解説している。

挿絵:岩田専太郎、横溝正史『夜光蟲』より 上記の絵は、「見出しカットでありまして、この場合直ぐに氣のつく點は文字を畫の一部分として扱ってあることであります。表題の夜光蟲といふ文字及び作者の名等を畫に溶けるやうに構圖しまして、文字もわざと多少…

岩田専太郎といえば、時代小説の挿絵や美人画を思い浮かべるが、これも岩田専太郎だ。

挿絵:岩田専太郎 「極端な遠近法を畫面に用ひまして不自然なくらゐに下の方を小さく、上の方を大きくしてありますのは、探偵小説としての怪奇的の気分を出させる為めであります。この場合、左右の線も勿論別に意味はありません。構圖の必要だけに考えへたの…

岩田専太郎がアールヌーボーの影響を受けているという話は有名だが、この絵は正にアールヌーボーそのものだね。時代小説とアールヌーボーという組み合わせはすごく斬新ですね。

岩田専太郎編『挿絵の描き方』(新潮社、昭和16年)に掲載されている「挿絵座談会」には、岩田専太郎、林唯一、富永健太郎、小林秀恒、志村立美が出席して、挿絵論を展開している。一番興味を魅かれたのは、「新聞、雜誌の描き方」の章だ。

「岩田 ……純粋な繪は皆に喜ばれなくてもいゝ。少数の人にだけ分つて貰つても……。 小林 純粋の絵は段々皆から離れていくといふ傾向がある。これも皆に喜ばれゝば喜ばれる程いゝのでせうけれども、喜ばれなくてもいゝのだ。 岩田 それが挿絵の場合だけは皆に喜…

もう一冊は、装画:武井武雄、吉田一穂『海の人形』(学芸書林、昭和51年)。大正13年金星堂より上梓された童話集で、著者の三回忌に再度刊行されたもので、吉田一穂の処女作でもある。武井武雄の挿絵が13葉掲載されているのが魅力的だ。

装画:武井武雄、吉田一穂『海の人形』(学芸書林、昭和51年) もしかして、来年、イルフ美術館へ取材に行くことになるかも知れないので、それまでに武井武雄のことを少し勉強しておこうとして購入した。

5時過ぎになって古書市を思い出し、明治大学の前の坂を転がるように走って、神保町古書会館に飛び込む。あと30分しかない中、こんな2冊を購入してきた。

挿絵:不明、伊藤英潮『宮本武蔵』(昭和25年、椿書店) 昔の印刷の特徴ともいえる版ずれが、見事に決まっている。今ではこんな印刷物を探そうににも見つからない。この本は講談本と呼ばれるもので、大正時代頃の小説本にはよくあった。つまり、講談師が話し…

「田賀陽介の作画 と 忍冬窯との共同製作による鉢 長谷川廣光との共同製作による箸」展(於:美篶堂〈みすずどう〉ギャラリー、8月10日まで)。展示されている写真は現在田賀さんがかかわっている風土景観デザインをしてい森の現場作業の様子。

美篶堂は、JRお茶の水駅のホームから神田川を眺めるようにして、地下鉄丸ノ内線が川の上に姿を現し一瞬だけ走るのをみつけ、更に湯島の聖堂の緑がある方向に目を向けると、もう、あなたの視界に入っているはず。そう、向こう岸の川べりにある左から三番目の…