岩田専太郎自らが描いた、横溝正史『夜光蟲』を例にとって、挿絵の描き方の極意を解説している。



挿絵:岩田専太郎横溝正史『夜光蟲』より


上記の絵は、「見出しカットでありまして、この場合直ぐに氣のつく點は文字を畫の一部分として扱ってあることであります。表題の夜光蟲といふ文字及び作者の名等を畫に溶けるやうに構圖しまして、文字もわざと多少氣持の悪い形につくりましたのも、探偵小説らしい感じを出すのに役立たしてあります。」(岩田専太郎編集『挿絵の描き方』)


「これも使ひ方に依ると却つて不愉快になつたり、嫌味になつたりしますが、巧く使はれた場合には探偵小説としての感じを強調することに役立つのであります。勿論写真を離れますから、このカットの場合では文字と畫との間の空間に、夜會の場面なので、天上(*井?)のシャンデリヤにぶら下がった人物を描いたのでありますから、足の下には夜會の人物が見える筈でありますが、この場合人物を描かずに、何か蛙の卵のやうなものが幾つも描いてありますのは、かうした譯の判らないものを描き、餘りはつきり説明しないといふことが探偵小説には相当有効なのであります。」(前掲)


またも、「譯の判らないものを描き、餘りはつきり説明しない」ということが極意であると、ここでも力説している。岩田専太郎の挿絵を考察する上でのキーワードといえそうだ。