岩田専太郎といえば、時代小説の挿絵や美人画を思い浮かべるが、これも岩田専太郎だ。



挿絵:岩田専太郎


「極端な遠近法を畫面に用ひまして不自然なくらゐに下の方を小さく、上の方を大きくしてありますのは、探偵小説としての怪奇的の気分を出させる為めであります。この場合、左右の線も勿論別に意味はありません。構圖の必要だけに考えへたのであります。唯、時計臺の所を白く、空を黒くし、黒と白との対照をはっきりさせてブラック・エンド・ホワイトの効果を強調したのであります。この場合、短剣を持った人物の説明を出來るだけ不確実にしてあることも、探偵小説の挿繪として矢張り一つの用意でありまして、つまり、これも餘りはつきりものを説明しないといふ一例であります。」(岩田専太郎編『挿絵の描き方』)



挿絵:岩田専太郎


「カットに比べて更に説明の不確實のものであります。これも前にもうした通り説明の不確實であることに依って、一應見る人の注意を引き、さうして探偵小説としての内容を餘りはっきり説明しないといふ用意の下に描かれたものであります。これは狭い川にに船を浮かべて居る所で、そのバックになる部分は冩眞をそのまゝ應用してあります。畫の一部分へ冩眞を切抜いて張ったものであります。印刷ではっきりでるかどうか疑問でありますが、この冩眞は道頓堀の冩眞の一部分であります。丁度川開きの日なので花火を使ってありますが、この花火も人の興味をひくやうに花火の如く花火でない如くに描いたのであります。畫として冩眞をそのまゝ使ふのは邪道だといふやうな非難もありますが、これは探偵小説としてさう四角張って非難するには及ぶまいと私は思ひます。」(岩田専太郎編『挿絵の描き方』)


と、何十年と挿絵界のトップスターの座に君臨しているためには、前回のアールヌーボーを取り入れた絵といい、今回のコラージュ風の絵といい、当時の最先端の美術運動を勉強し取り入るなど、蔭での研究や苦心にも並外れた努力をおしまなかったようだ。


画面のムーブマンを作り出す構成力にも、人並みはずれたセンスがあり、読者をいつもドキドキさせるのに長けている。