「田賀陽介の作画 と 忍冬窯との共同製作による鉢 長谷川廣光との共同製作による箸」展(於:美篶堂〈みすずどう〉ギャラリー、8月10日まで)。展示されている写真は現在田賀さんがかかわっている風土景観デザインをしてい森の現場作業の様子。


美篶堂は、JRお茶の水駅のホームから神田川を眺めるようにして、地下鉄丸ノ内線が川の上に姿を現し一瞬だけ走るのをみつけ、更に湯島の聖堂の緑がある方向に目を向けると、もう、あなたの視界に入っているはず。そう、向こう岸の川べりにある左から三番目の建物のなかにある、製本工房が主催する小さなギャラリーだ。


この地下鉄でありながら本の瞬間地上を、いや、水上を走るレアなスポットでもある。
美篶堂の御主人・上島松男さんは、「あじろ綴製本」の考案者として拙書『装丁探索』(平凡社、2005年)でも紹介している、魂のある製本職人でもある。



製本工房のショップに用事があってドアを開けると、この水彩画と写真が目に飛び込んできた。水彩画を多少たしなむ小生は、すぐに魅せられてじっと鑑賞していると、後ろから「コンニチワ」と声をかけられた。森のデザイナーのような仕事をしているという田賀さんだ。仕事の話を楽しげに話す田賀さんに魅せられて、15分で済ませて古書市に行く予定を変更して、1時間以上も話し込んでしまった。大きな木を植え替えたり、伐採したり森の手入れをしながら、理想的な植栽の森に作り替えていくのだそうだ。水彩画は20分間の雲の動きを描いた4枚の作品など。



水彩画は、そんな仕事の資料として描いているのだそうで、惜しげもなく水彩画の上に赤鉛筆で森の説明が書かれている。ファインアートとしての水彩画でなく、実用品的なところが何とも親しみを感じてしまった。森のデザインをしながら、伐採した間伐材を使った箸も展示販売している。大工さんに頼んで削って貰っているという。


家を空けることが多いので、鉢植えの植物が枯れないような工夫をして、知人に焼いてもらっているという植木鉢も必要から生まれたもので、はじめから商品企画されたものでないところが、田賀さんらしさなのだ。


帰り際には、山で採集したサクランボを使ったという、貴重なチェリー酒を飲ませて頂いた。これがとてもフルーティで、思いの外サクランボの香りが残っていて、とても印象の深い酒だった。忍冬窯の鉢、長谷川廣光さんの箸も展示販売しています。
田賀さんが会場にいたら、ぜひ声をかけてみてください。今どきなかなか出会う事が出来ない熱い話に癒される事、請け合いです。



■田賀陽介■(たがようすけ)1989年、多摩美術大学美術学部卒。曽根幸一・環境設計研究所を経てフリー。イラストレーション、立体造形、インテリアデザインから地域環境計画、植栽計画をおこなう。食に関しては、半蔵門にあったレストラン・ルフィーノで家庭的なイタリア料理を手掛けていた清水ゆから氏に師事。