5時過ぎになって古書市を思い出し、明治大学の前の坂を転がるように走って、神保町古書会館に飛び込む。あと30分しかない中、こんな2冊を購入してきた。



挿絵:不明、伊藤英潮『宮本武蔵』(昭和25年、椿書店)
昔の印刷の特徴ともいえる版ずれが、見事に決まっている。今ではこんな印刷物を探そうににも見つからない。この本は講談本と呼ばれるもので、大正時代頃の小説本にはよくあった。つまり、講談師が話したものを速記で書き取り、それに多少手を入れて読物にする方法だ。だから、講談師が話すように書かれている。


「戦国時代、殊に元亀天正の頃は群雄割拠、諸侯互いにその覇を競ひましたる時、凡そ一芸一能に達した者が一国一城の主となることはさして困難なことではございませんでした。この戦国時代に人と成った宮本武蔵政名先生は、壮年の時代は鬼将軍といはれ後に入道して二天元信と名乗った加藤肥後守清正公の家臣となり、主家の滅亡と共に諸国の大小名より争って仕官を望まれましたが、二君に事へるは武士の道にあらずとして、老後は一管の彩筆を友とし、閑日月の裡に一世を終ったといふ、実に戦国武士の典型、武士の中の武士ともいふべき方でございました。」
と始まる。語呂が良くて読みやすいのも特徴だ。