「見ているだけですめばモデルは幾らでも居る。女を描くという事は、女と生活する意味だ。見ているだけでは本気になれない。描きたいとおもう欲望と、生活を持ちたい欲望とは共通している」(川口松太郎『飯と汁』講談社、昭和35年)多少の脚色はあるだろうが、岩田専太郎の言葉といってもいいだろう。


「形は描けても心が描けない。そんな風に思ってマキにも直ぐ家を持たせた。身体を許してしまったあとのマキは、千吉(*専太郎)のいうことには一切逆らわず、人形のように従順で、希望通りのワクの中に入ってきた。『俺の絵はまた変る。マキのお蔭で変る』と、家を持った時の千吉の顔は、清島町時代の青年に戻ったようだった。……新しい家で、マキを裸にしてスケッチを取る千吉は、世界最高の幸福を感じた。間もなく画風もがらりと変ってマキのモデルが仕事の上にも現れ、生き生きとし初めた。」


「とき子、静子、幸枝、マキと四人のモデルが彼の画風を四つの時期に区別している。ぽってりとした幸枝の美しさが三年続いたあと、無表情のマキの媚態が全く新しいタイプをうちだした。」(『飯と汁』)と、挿絵のモデルを求めて、専太郎は次々と女性を独占した。とき子は妹。


年代順に専太郎が描いた女性の顔を並べてみたら、モデルが変って画風が変るのがわかるはずなので、出来るだけ沢山の女性の絵を集めてみようと思う。



岩田専太郎:画、叶九雙「恨みの鳩毒」(「講談雑誌」、大正9年



岩田専太郎:画、叶九雙「湯の宿」(「講談雑誌」、大正10年)



岩田専太郎:画、岡本綺堂「権十朗の芝居」(「苦楽」、大正13年



岩田専太郎:画、三上於菟吉「日輪」(「毎日新聞」、大正15年)



岩田専太郎:画、吉川英治鳴門秘帖」(「講談雑誌」、大正15年)



岩田専太郎:画、前田孤泉「厄年」(サンデー毎日、大正15年)



岩田専太郎:画、三上於菟吉「都会獣」(「講談倶楽部」、昭和6年



岩田専太郎:画、「鏡の中の花」(「令女界」、昭和6年




岩田専太郎:画、中河与一「愛恋無限」(朝日新聞昭和10年



岩田専太郎:画、菊池寛「禍福」(「主婦之友」、昭和12年



岩田専太郎:画、邦枝完二「遠島船夜話」(サンデー毎日昭和12年



岩田専太郎:画、吉屋信子「女の教室」(毎日新聞昭和14年



岩田専太郎:画、大仏次郎「夕焼け富士」(サンデー毎日昭和14年



岩田専太郎:画、「サンデー毎日」表紙(サンデー毎日昭和15年



岩田専太郎:画、川口松太郎火の鳥」(毎日新聞、昭和25年)



岩田専太郎:画、川口松太郎「振袖狂女」(毎日新聞、昭和26年)



岩田専太郎:画、子母沢寛「お坊主天狗」(毎日新聞、昭和29年)



岩田専太郎:画、北條誠「わが恋やまず」(毎日新聞、昭和31年)



岩田専太郎:画、「読切倶楽部」表紙(三世社、昭和33年)



岩田専太郎:画、冨田常雄「清流」(「月刊平凡」、昭和36年


モデルが変っていくのを読み取れたでしょうか?




これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

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螺旋人リアリズム ポケット画集

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