「明星」というタイトルには、どのような意味があるのだろうか。またも、木股知史『画文共鳴』(岩波書店、 2009年)の考察に耳を傾けてみよう。「♀の記号が初めて現れるのは、新聞版『明星』三号(一九〇〇[明33]・六)の誌名プレートを飾る、止水長原孝太郎による炬火をかざすクピドの図である。クピドの額の五芒星の中に、♀の記号が描かれている。クピドは伝承ではヴィーナス(アフロディテ、ヴェヌス)の息子であり、愛を示し、可愛い有翼の少年として絵画の中に登場する。炬火は、ここでは、ヴィーナスの持ち物として描かれる愛を燃



藤島武二:画、「明星」第4号、表紙4(明治35年


「じつは、この記号が含意するものが、表紙の女性像を考える時に重要な意味をもってくるのである。♀の記号は占星術で金星を表している。むろん、『明星』という誌名は、金星を意味している。そして、忘れてならないことは明星は女神ヴィーナスをも意味するということである。つまり、止水長原孝太郎がクピドを描いたとき、画面には描かれていないが、明らかにクピドがつき従っているヴィーナスのことが連想されていたのである。


ヴィーナスとクピドの組み合わせは、西洋美術では、繰り返し描かれるありふれた画題であり、初期では画面に♀の印が描き込まれることがあった。だから。一條成美や藤島武二の表紙画の女性は、女神ヴィーナスを暗示していたと考えられる。表紙のヴィーナスと裏絵のクピドが対応するようになっているのである。」と、「明星」という題字は、女神ヴィーナスを意味し、クピドの絵と一対になっているという。


さらに「金星は、女神ヴィーナスと関連し、正確には八芒星として表示される。それは、愛や想像力や芸術を象徴することがある。」として、西洋占星術における金星(ウェヌス)の意義について、ウォレン・ケントンのつぎのような説明をあげている。


「金星(ウェヌス)にとっての原型は、力に満ちた裸身の若い女性のそれだった。自然の背後にいる女神の一人としての彼女の原理は、本能の力、魅力および嫌悪であり、それは、季節の限りのない循環のうちに表されているものであった。春と夏には彼女は葉と花を身に付け、秋と冬にはこれを脱ぎ捨てた。彼女は獣たちをして互いに戦わせたり、激情に駆らせて番わしめたりした。


人間のあいだでは、彼女は愛ばかりでなく官能と喜悦の女神でもあった。若い男女は彼女に祈りを捧げた。水星が子供の神であったよに、金星は青春の神性であり、その情熱的な欲望や憎悪のすべてを伴っていた。美食、慰安および、喜悦は彼女の特技であり、貧困と醜悪は彼女の忌むところだった。自己の金星的部分を支配することができる人びとへの彼女の贈り物は美と芸術と調和の力であった。」という。


ヴィーナスは「官能と喜悦の女神」であるとともに、「美と芸術と調和の力」を人に与えもした。