恩地孝四郎のビロードを使った装丁

恩地の作品にはビロードを使った装丁が沢山ある。
北原白秋北原白秋全集』(アルス、昭和4年)もそんなビロードを使った装丁だ。
今から78年も前に作られた本だが、経年変化は見られるがさほどにいたんでいるとは思えない。もう1冊紹介しよう
曽我廼家五郎全集』(アルス、昭和5年)


いずれも造本としてはあまり評判のよくない昭和初期にブームになった円本全集だ。箱に入っていたこともあり表紙はきれいだが、背の部分が日焼けして退色している。円本全集はそんなに大切にされた本ではないと思うが、これらのビロードは書物としての機能を十分に果たしているように見受けられる。


これらの本に触れてもらうことが出来ないのが残念だが、実に手触りがいい。皮膚感覚で得られる情報量は、目で見た情報と違って温度や硬軟、テクスチャーなど、さらには気持ちよさなどという官能的な情報さえも引き出してくれる。


版画家でもある恩地孝四郎はこのような指先の感触を感じとる感覚が人一倍優れていたのではないかと推察する。装丁は指先の堪能にこそ訴えるべきなのだ。この本を手に取り、ビロードの布の上にそっと指をはわせてみれば、ここちよいさが指先から伝わってくるはずだ。そう異性の肌に触れたときのように。