桜井書店本 その後1

「本の手帳」2号に桜井書店本の装丁の話を書いたばかりだというのに、昨日、高円寺の古書市で見事な桜井書店本を見つけてしまった。


・鈴木朱雀装、田中茂穂『魚の眼』(昭和17年9月初版)がその本だ。




購入するにあたっては多少の躊躇があった。それは、もしかして架蔵書にあるかもも知れないという不安と、いやどこかで見て知っているだけで、今購入しなければなかなか出会えなくなってしまうかも知れないという不安が、時計の振り子のように行ったり来たり繰り返していたからだ。


購入に至ったのは、このタイトルの本は絶対に持っている。しかし、この函は見たことがないしこの表紙の絵も全く見た記憶がない。家にあるのは異装本か、あるいはよく似たタイトルの本に違いないという決断をしたからだ。


この決断は正しく、帰宅してから調べてみるとか蔵書は
・郷倉千靭装、田中茂穂『魚の眼』(昭和21年10月再版)で、戦後に刊行された再販本であり、装丁家も郷倉千靭に代っていた。



戦時中に鈴木の身に何か起きたのではないかと思って、Wikipediaで鈴木の略歴を調べてみると
鈴木朱雀(すずき すじゃく1891年12月―1972年5月4日)は日本画家、挿絵画家、本名幸太郎。野田九甫に師事し、川端画学校で学ぶ。1920年2回帝展に「吟鳥」が入選。1936年11回オリンピックベルリン大会の芸術競技絵画種目に作品名「古典的競馬」を出品し銅メダルを獲得。
このオリンピックというのは、「民族の祭典」と銘打ち、昭和11年(1936年)に大規模に開催。スポーツ競技のほかに、オリンピック規約にある「芸術部門の競技」も行われ、世界中の多くの芸術家たちが参加した。日本からも絵画部門に若き日の東山魁夷小磯良平棟方志功が出品したが、いずれも落選し、日本画を専攻する無名の藤田隆治と鈴木朱雀が入賞した。


この入賞が鈴木に起きた変化だったのかもしれない。
*写真は13日(火)に出社した時に掲載します。