今から28年前、1982年に三省堂から凾入り豪華本として定価18,000 円で刊行された『恩地孝四郎装本の業』は、今でも古書価が15,000円〜23,500円もする。研究者など仕事で必要な場合なら購入もするだろうが、装丁に多少興味があり恩地孝四郎の装丁本を集めているという私のような貧乏趣味人にはちょっと高い。そこで、知り合いでもある三省堂の出版企画センター長に『恩地孝四郎装本の業』の復刻をしていただけないだろうか、と2年ほど前に話を持ちかけた。最初は、当時の版(製版用のフィルム)がなくなってしまったことや


その後、著作権継承者を探したり、研究者の桑原規子さんを紹介するなど復刻へ向けて、プッシュし続けると、判型をA4版からB5版に縮小し、上製本並製本にするなどして廉価での販売出来るようにすること、無くなった版は古書をスキャンニングすることにして製作費を抑えれば復刻可能かも知れません、との返事を頂いた。


その後、しばらくは音沙汰がなかったが、先日『新装普及版 恩地孝四郎装本の業』(三省堂、2011年)が送られてきて、ご恵贈頂くことが出来た。定価5,000円で新装復刻版が刊行されたのだ。



『新装普及版 恩地孝四郎装本の業』(三省堂、2011年)


巻頭カラーの17pから104pまでは、印刷物からの複写とは思えないほどきれいに再現されているのには驚いた。判型を縮小した効用がこんな所に出て来ている。判型を縮小したことで、文字が小さくなるのではないかというような危惧も全く不要で、最近の復刻の技術のレベルの高さに感心させられた。
 巻末には、桑原規子「恩地孝四郎の装本と芸術」や三木哲夫編「恩地孝四郎年譜」、そして恩地元子「あとがき」が新たに加えられ、初版よりも充実した内容となっての再登場だ。


私が復刻の話を持ち込んだ時の最大の要望は、その後の調査を踏まえた、より新しい「恩地孝四郎装丁本の書誌データ」を加えて欲しいと云うことであったが、その点については反映されてはいなかったようで、今後の出版物に期待することにしよう。


『新装普及版 恩地孝四郎装本の業』には、523点の書籍の装丁がモノクロ写真と共に掲載されているが、装丁数の多い恩地本は決してそれでは充分ではなく、単行本のほかに楽譜、雑誌の表紙等も含めるとまだまだ研究の余地の残された領域だ。
 5年ほど前に「恩地孝四郎装本の業』、『本の美術』(出版ニュース社)、『恩地孝四郎装幀美術論集』(阿部出版)等を参照にした書誌データに、国会図書館神奈川近代文学館のHPデータなどを含めて、「恩地孝四郎装幀本書誌データ」を作ったことがあるが、それでも時々古書市などでは新たな作品を見つけることがある。架蔵書を全部照合したわけではないが、林次忠『舞台と史蹟』(朝日新聞社昭和5年)などもそんな過去の書誌データから漏れていた作品といえる。



恩地孝四郎:装丁、林次忠『舞台と史蹟』(朝日新聞社昭和5年