三島由紀夫好みの贅を尽くした優れた造本


皮肉にも没後に刊行されたもう一つのシリーズ本、横山明装丁『三島由紀夫短篇全集』(講談社、昭和46年)とが三島本の中では秀逸で三島好みを知り尽くした装丁ではないだろうか。函には銀箔押しの文字が、表紙には空押しの模様が、背には色箔押しがほどこされるという3種の箔押し三昧を取り入れるという贅の限りを尽くしている上に、日本刀を思わせる2種の銀紙の使い分けが巧みで、ぎらりと光る演出は三島が見たら身震いしながら喜んだのではないかと思われるほどに三島好みを表現しているように思える。イラストレーターでもある横山が得意とする精密なイラストを封印しての装丁にも隠れたぜいたくを感じないわけには行かない。


三島由紀夫天人五衰』(新潮社、昭和46年)
三島由紀夫暁の寺』(新潮社、昭和46年)
三島由紀夫奔馬』(新潮社、昭和46年)
三島由紀夫『春の雪』(新潮社、昭和46年)




シルクの本は眺めているだけで気だるく倦怠感を催す魔性の資材だ。


皮のボンテージとシルクのガードルが女性の魅力を演出する道具としてのイニシアティブを争っているように、書物の世界でも革装と布装は長い間ヘゲモニー争奪戦を続けている。