有島生馬の装丁『小山内馨全集』

有島生馬といえば、かつて大正4年の「美術新報」にボッチオーニの『我々はなぜ印象派でないか」を翻訳して掲載し、巻頭に「此訳文を『月映』の恩地孝四郎兄にをくる」という献辞を捧げたという話を書いたことがある。前衛美術を日本に紹介した初期の人物の一人であり、二科会創立者の一人でもあり、大正期の抽象絵画の牽引車的な画家である。


そんな有島の「装丁」に関しては、全く知らなかったが、初めて手に入れる有島の装丁する『小山内薫全集』第5巻(春陽堂、昭和6年)を東京古書会館で500円で入手した。かなり痛みがひどいがそのうち買い替えるつもりで購入した。

シルクのような輝きのある布にシルクスクリーン印刷したような感じで、印刷インクがぼってりとしており、なんとも風合いのある装丁に仕上がっている。幾何学的な模様をあしらったあたりは、いかにも抽象美術の画家の装丁を思わせ、本絵をかくときとと変わらない心意気を感じることができる格調高い装丁だ。


前衛美術の画家たちが複製美術である装丁や挿し絵に表現手段の一つとして興味を示し、単なる収入のためではなく創作活動の一環として考えていたのではないかと言うことを論証してくれる貴重な作品でもあるように思える。