櫻井書店本『日本児童文学選』

「こんな本を見つけてしまった、いいだろう!」と自慢したくなるような、そして頬擦りしたくなうようなお気に入りの装丁だ。そんな「頬擦り本」とは児童文学者協会編『日本児童文学選』年刊第一集(櫻井書店、昭和23年11月重版、初版は23年11月)、A5変型判、364ページ、地券紙本(柔らかい表紙の上製本)。


装丁家脇田和。「Kazu」という署名が以前から気になっていたが、なかなか集めるまでには、至らなかったが、この本を機会に一気に蒐集したくなってきた。



今回は櫻井書店の本、と言う事で購入したので、脇田和の装丁本を蒐集しようとしたのではなかったが、思わぬところから蒐集の範囲が広がってしまいそうだ。戦後の本までは手を広げないようにと、自分に言い聞かせてきたのだが、櫻井本というので、広げざるを得なかったのだが。


この本は参画している執筆陣も豪華、挿絵家たちの人数も挿絵のレベルもかなり高く、お買い得な感じが強い本だ。挿絵家は25名で、1冊の本にこんなに沢山の挿絵家が絵を提供している本は、今日ではほとんど見ることができない。挿絵家の名前を見ただけでその挿絵家の絵を思い浮かべる事が出来る人も多く、たとえば、初山滋村山知義武井武雄、深沢紅子、赤松俊子、三芳悌吉などなど豪華な顔触れが並んでいる。

まだ硝煙くすぶる焼け野原の終戦後間もない時期に、よくもこれだけの本が出せたものだと感心させられ、櫻井の意気込を感じざるを得ない素晴らしい本といえるだろう。本文紙は酸性紙で大分、赤茶けてきているので、丁寧に扱わないと本文紙がパリパリと割れてしまわないかと心配だ。

「刊行の辞」を読むと、「本集は、児童文学者協会が、初めて世に問う年刊作品集であります。年刊といっても、正確には、終戦から今日まで、約二ヶ年にわたる間に、執筆した作品を、会員各々が、自選して収録したものでありますから、作品の完璧を誇る事は出来ないまでも、少なくとも、各作家の今日到達した水準を示す作品であるということは、できると思います。」と高らかに書き出している。

「…今日の児童は、戦争の創痍全く癒えずその精神は、今もなお曠野を彷徨しております。われわれは、児童に対する、新しい愛情のあり方を究め、彼等の友人としての義務を果たさなくてはなりません。…肩を張って申せば、日本における児童文学が、終戦後打ち立てた記念塔といえましょう。」と高い意識をもった出版であることをのべ自らをも昂揚している。

「…終わりに日本童画会の諸氏の同志的な御協力と、出版事情の困難な際に、進んで刊行をお引受け下さった櫻井均氏、並びに、編集部の諸氏に対して、厚く御礼をもうしあげます。」と、日本童画会と児童文学者協会が手を携えて作り上げた本であることも意義のある出版物であると思われる。