清宮彬装丁、中村亮平『聖者の生活 荒野之光』(洛陽堂、大正10年)

shinju-oonuki2006-01-16

 
著者はあまり人気がなかったのであろうか、倉田百三が「序にかえて」を16ページも書いて、まるで共著のようになっている。その後に48ページ(24カットの写真)もの口絵が続き、その後にやっと6ページの著者前書きが出てくる。目次はさらにその後で、70ページから始まっている。つまり装丁家名を探すのに、苦労をしたということがいいたいのである。
 
表紙に「彬」のモノグラムを見つけることが出来たが、これが中尾彬ということはないだろうが、どうしても確実な証拠が欲しいので、古書市の会場で徹底的に装丁家名の記載を探す。著者前書きに「「清宮彬氏によって、又この美しい装をして世に出る事を、合わせ記して記念したく思ふ。」の一文を見つけてホッと一息。著者が無名であるせいなのか、古書価は安く、安心の800円だった。
 
左右対称の構図は、いかにも清宮彬らしい几帳面な装丁である。岸田に装丁の手解きをしたという、いわば装丁に関しては岸田の先輩格の清宮だが、同じ白樺仲間にも岸田劉生の装丁のほうが人気があるのは、岸田のオリジナリティに富んだ、自由な画風の方が評価されたのであろう。
 
岸田に隠れてあまり知られていない清宮だが、装丁史の中では見落とすことの出来ない存在といえる。清宮自らの装丁もさながら、岸田劉生という希有な装丁家を輩出させたことや、近代挿絵史における「白樺」が果たした役割を考えると、清宮がその一翼を担っていたことは確かなことであり、清宮の近代装丁史にその存在は見落とすことが出来ない。
 
さほど人気のある装丁家ではなかったが、高橋忠弥、広川松五郎と同様、心引かれる装丁家の一人である。