睡蓮と蓮をあしらった杉浦非水の装丁本

毎日1万歩を目標に散歩しているが、昨日は睡蓮の花が見ごろだというのでちょっと足を伸ばし立川・国営昭和記念公園に行ってきた。が、2万歩を超えてしまい歩きすぎたようだ。


 小学生の頃に聞いた、2000年前の弥生時代後期の蓮の果実を大賀一郎博士が発芽させることに成功した話は、大いにロマンをかき立てられた。朝に開き、夕方眠るように閉じることから睡蓮と呼ばれるネーミングもいい。
 仏教でいう蓮は本来は睡蓮のことで、泥水の中から生じ清浄な美しい花を咲かせる姿が仏の智慧や慈悲の象徴とされ、蓮華をかたどった如来像の台座や、蓮華の彫刻を施した厨子の扉などに取り入れられている。


 しかし、睡蓮(蓮)の花は、抹香臭いといわれ装丁などでモチーフとして使われることはあまりない。そんな先入観を除けば、初夏の水面に咲く即非蓮(写真左)はとても爽やかで可憐で美しく、好きな花だ。

即非蓮(国営昭和記念公園


杉浦非水:装丁、橘漣子『さざなみ』(香蘭詩社、昭和13年)は、追悼歌集という意味を込めて睡蓮の花を選んだのだろうが、いわれなければそれとは気がつかず、女性の歌集らしい雰囲気をもたせた素敵な装丁だ。

杉浦非水:装丁、橘漣子『さざなみ』(香蘭詩社、昭和13年


杉浦非水:装丁、笹川臨風日蓮上人』(同文館大正4年[赤地]、大正8年[黄土地])は内容が親鸞上人なので蓮の花はぴったりのモチーフだと思うのだが、仏教でいう蓮は本来は睡蓮のことではなかったのでは?
 睡蓮は葉にV字型の切り込みが入り水面より上に上がらない。一方、蓮の葉は丸く切り込みがなく、水面よりはなれて高く立ち上がり、表面に撥水性がある! 装画の蓮の葉は水面から立ち上がっており、穏やかなカーブをたどるとほぼ円形を描いているものと推測できるので蓮の花のように見える。

蓮の花

 
 ともあれ、アール・デコ風なこの装丁は強力なインパクトがあり今でも充分に魅力的な装丁なので、当時としてはかなりモダンなデザインだったのではないかと思われる。葉っぱと花は色箔押、背に黒箔押しの図柄、タイトルは金箔押と豪華さこの上ない。葉の図柄が本の縁にかかっているが、箔押の場合は金型に均一に圧がかかりにくくなるので、はみ出すような図柄は、箔押の現場には好まれない。

杉浦非水:画、笹川臨風日蓮上人』(同文館大正4年[赤]、大正8年[黄土])