宮沢賢治『春と修羅』表紙に描かれているはタンポポ?

広川松五郎:画、宮沢賢治春と修羅』(関根書店、大正13年4月)に描かれている植物はずっとタンポポだと思っていたが、文献資料によるとどうもアザミのようだ。


 『春と修羅』の出版にあたって、賢治とは義理の兄弟にあたる関登久也(本名、岩田徳弥)が奔走した。関が若い頃に尾山篤次郎門下の歌人であった縁で背文字は尾山がマッチの軸で書いてくれた。しかし、外箱とタイトルページには「心象スケッチ」となっているが一番上の角書きの「心象スケッチ」と書くべきところを誤って「詩集」と書いてしまった。
 図案は尾山の紹介があったのだろうか、尾山の著書の装幀なども手がけている後に東京美術学校(現東京芸大)の教授となる染織家・広川松五郎に依頼し描いてもらうことができた。


 『春と修羅』の装幀について、関は賢治の研究雑誌『イーハトーヴォ』に掲載された「賢治素描」に「表紙は青黒いザラザラした手ざわりの物が欲しいと申して居りましたが、なかなかそんなものは見あたらず、丁度その頃私が商用で大阪へ参りました時、歌人尾山篤次郎氏のお世話で、私の友人富谷三郎君にあの布地を見つけてもらひました。賢治氏の希望に合ふのは唯ザラザラした手ざわりのところだけで色などは全然違ひます。」と書いている。関はせめてこの図柄で、賢治の希望であった青黒い色を出そうとしたのだが、布地がザラつき色がのらず薄い色になってしまい結局失敗だったという。