ナラの木をモチーフにした白山春邦:画、北原白秋『きょろろ鶯』

東大付属演習林を散歩中にナラの実生(写真左)を見つけた。落ちたドングリは大半が虫食いか、乾燥などで発芽できなくなってしまい芽を出す確率はかなり少ないという。


 実生ではないがナラの木をモチーフにした、白山春邦:画、北原白秋『きょろろ鶯』(書物展望社昭和10年)は書物展望社の本の中でも格別に見事な装丁といえる。ゲテ本とは違った出版人の良心を感じることが出来る品格の高い装本だ。木版摺りの表紙はもう今日ではなかなか制作できない書物であり、表紙の縁を斜めにカットしている面取(めんとり)も、丁寧な本の作りの証である。

白山春邦:画、北原白秋『きょろろ鶯』(書物展望社昭和10年


「表紙の精緻な楢の枝葉を表裏一杯に木版手摺りにしたものであるが、これが在来の版画師では心細いといふので、龍生閣の沢田君の紹介で山口という刻師に依頼したのだった。」(今村秀太郎書物展望社本』日本古書通信、平成7年)とあり、この見事な版画を創作できた影には、彫師を探すだけでも大変な苦労があったようだ。
 北原白秋は「巻末に」に、「装幀は、いつもならば私自身でするのだが、今度は親しい白山春邦畫伯にお願ひした。挿畫も扉畫も題簽と同じく一と手にして頂いた。氏も私も樂しみ往來した。挿畫は多磨白秋居の此の二階から寫生してくだすったものである。野は麥の秋のいゝ香ひと色との季節であった。改めて御禮を申し上げる。表紙の金版の文字だけが私の細書きである。」と記している。