北原白秋『きょろろ鴬』(書物展望社、昭和10年)、二十数度手摺り木版表紙の木下杢太郎『雪櫚集』(書物展望社、昭和9年)は装丁史に残る大傑作といってもよい見事な装丁だ。資材ヘのこだわりではなく装画に頼った本は昌三の好みではなかったのかも知れないが、書物展望社の本には装画を使った美しい本がたくさんある。


白山春邦:装丁、北原白秋『きょろろ鴬』(書物展望社昭和10年)、製本:中村重義



白山春邦:画、北原白秋『きょろろ鴬』(書物展望社昭和10年)口絵



白山春邦:画、北原白秋『きょろろ鴬』(書物展望社昭和10年)扉絵


北原白秋「巻末に」には、
「装幀は、いつもならば私自身でするのだが、今度は親しい白山春邦畫伯にお願ひした。挿畫も扉畫も題簽と同じく一と手にして頂いた。氏も私も樂しみ往來した。挿畫は多磨白秋居の此の二階から寫生してくだすったものである。野は麥の秋のいゝ香ひと色との季節であった。改めて御禮を申し上げる。表紙の金版の文字だけが私の細書きである。」


と、表紙絵は白秋家の二階から写生したようで、著者と装幀家の親しげな様子が見て取れるようだ。よい装丁というものは、えてして、このようなよき雰囲気の中から生まれてくるものだ。