我が町には、この季節になると道路脇の植え込み、公園、空き地など至る所にポピー(ナガミヒナゲシ〈長実雛罌粟〉の帰化種)と思われるこの花が咲き乱れ、喜ばれている…?? いや、迷惑がられている。
ケシというと、まだ熟していない果実の乳液からアヘンやモルヒネを取り出す栽培禁止になっているケシを思い出すが、ナガミヒナゲシからは精製できない。雛罌粟(ヒナゲシ)は別名、虞美人草と呼ばれるが、自害した虞を葬った墓に翌夏赤くこの花が咲いたという伝説からこの名がついたといわれる。
橋口五葉:画、夏目漱石『虞美人草』(春陽堂、明治43年6版)の表紙にもその名の通りヒナゲシ(虞美人草)がアール・ヌーボースタイルで描かれている。進取の気性の女性と古風な女性をヒナゲシに托し、新しい文明を西欧から上陸したばかりの新しい様式で描こうとしたのだろうか、近代装丁史を代表する美しい装丁だ。