木下杢太郎が描くかなめもちの美しい装丁『心の遠景』

木下杢太郎が与謝野晶子から『心の遠景』( 日本評論社昭和3年)の装丁の依頼を受けた時のエッセイ「もちのうちではかなめもちが其葉の色が一番美しい。殊に春落葉する前に、暗示の古葉を着け、これに新芽の淡緑と壮葉の藍鼠とが交るのが、色取が好い。」(木下杢太郎「本の装釘」、「木下杢太郎全集」第18巻、岩波書店、昭和58年)を読んでからはじめてカナメモチという樹木に興味を持つようになった。
 まだ花が少なく寂しげな春先の垣根に元気を注入するように赤い葉をいっぱいに広げる目立ちたがりやだ。


「まだ富士見町に住んで居られる時、晶子夫人から本の装釘を頼まれた。それはどの本の為めといふのではなかつた。当時わたくしは名古屋の閑所に住み、その庭のかなめもちとどうだんの葉をていねいに写生した。うち忘れた頃それが晶子夫人の歌集「心の遠景」の表紙と其紙函との装飾に用ゐられた。この集の発行は昭和三年六月の事である。わたくしは名古屋を去つて仙台に在つた。木版は孰れも伊上凡骨が其弟子を督して彫刻する所であつた。無頓着に引いた細い線を克明に彫つてくれたのを見て気の毒と思つた。」(木下杢太郎「本の装釘」、「木下杢太郎全集」第18巻、岩波書店、昭和58年)

木下杢太郎:画、与謝野晶子『心の遠景』(日本評論社昭和3年)。