中一弥氏と師匠の小田富弥(1895[明治28]〜1990[平成2]年)が、同じ「娯楽倶楽部」(娯楽社、昭和23年)誌上で共演しているのを見つけ、僅か50ページほどの冊子にしては少々お高い感じがしたが、購入してきた。帰宅して読んでいるうちに、この本は41ページから44ページまで、切り取られていたことがわかった。ビニールに容れて売るときは気を付けてけてくださいよ、芳林文庫さん。


表紙は今村恒美が描いているが、何となく中一弥氏の挿絵が載っていそうな気がしたので、ガラスケースの中に展示されている上にビニール袋に入っているという気のいれようの展示だったが、思いきって店員さんに声をかけて拝見させてもらった。



表紙画:今村恒美、「娯楽倶楽部」(娯楽社、昭和23年)


4ページあるカラーの口絵の最初はさすがに小田富弥の登場で面目を保つ。2〜3ページは見開きで清水三重三が描き、4ページ目を中一弥氏が担当している。本文中に掲載されている子母沢寛「芳蔵行方知れず」の挿絵だ。富弥53歳、一弥氏37歳の時、師匠に肩を並べた時でもあり、大きな自信に繋がったものと思われる。



小田富弥:画、「娯楽倶楽部」巻頭口絵(娯楽社、昭和23年)53歳



清水三重吉:画、「娯楽倶楽部」巻頭口絵(娯楽社、昭和23年)



中一弥:画、「娯楽倶楽部」巻頭口絵(娯楽社、昭和23年)37歳

中一弥氏自身が「「昭和十五、六年ころは、岩田専太郎小林秀恒、それから志村立美の絵が大流行していました。いろいろな出版社が特に岩田専太郎小林秀恒を使っていましたから、挿絵画家は彼らのような絵を描かないと喜ばれなかったんです。僕も生活のために、そんな絵を描いていたものです。以前、小林秀恒さんが病気で倒れたとき、僕は小林秀恒さんに代わっていくつか絵を描いたことがありました。」と、人気作家のスタイルを研究した時代もあったようだ。この「娯楽倶楽部」巻頭口絵はどことなく、小村雪岱のような雰囲気があるようにみえるが、雪岱の絵を研究したという文献は未見。



中一弥:画、子母沢寛「芳蔵行方知れず」(「娯楽倶楽部」娯楽社、昭和23年)37歳



中一弥:画、子母沢寛「芳蔵行方知れず」(「娯楽倶楽部」娯楽社、昭和23年)37歳



小田富弥:画、大林清「素浪人推参」(「娯楽倶楽部」娯楽社、昭和23年)


■11月にJR中央線日野駅前にある実践女子学園生涯学習センターで「美しい本の話」と題する講座を3回に渡って開催予定。毎回たくさんの本をもっていきますので、実物を手に取ってご覧下さい。
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・受講料=3,150円
・日 程=11月2日、11月16日、11月30日(いずれも10:30〜12:00)
・内 容=1.洋装本の伝来と装丁の始まり
      ─橋口五葉の漱石本とアールヌーボー
     2.幾何学模様の装丁は今でも斬新
      ─恩地考四郎の前衛美術装丁─
     3.廃物を利用した豪華な装丁
      ─番傘などを使った斎藤昌三のエコ装丁─
・申込・問合せ=TEL.042-589-1212 FAX.042-589-1211
        (日・祝日は休館)
        フリーダイヤル=0120-511-880(10:00〜17:00)
        HP=https://www.syogai.jissen.ac.jp
・場所=〒191-0061東京都日野市大坂上1-33-1(JR中央線日野駅前)