タンポポ綿毛の装丁、深澤索一:装画、石坂洋次郎『雑草園』がいい

タンポポの綿毛(わたげ)」というとロマンチックだが、胞子(ほうし)とよぶと理科の時間みたいだ。たしかにあったはずだが、振返るといつの間にかに消えてしまったはかない夢のように、風がさらっていく。


 そんなタンポポの綿毛をモチーフにした装丁は珍しい。いや、花なのか綿毛を描いたのかの判断がむずかしいのだ(写真左)。深澤索一:(刻・摺)とあるが、手摺木版画を使った装丁ということか。戦争の足音がきこえる時期に、なんという贅沢!石坂洋次郎『雑草園』(中央公論社昭和14年6月)。
 表紙に描かれているのは「すかんぽ」か(写真右)、思いだすだけでつ思わずツバを呑む。「この本には、はかない思いで話や酸っぱい話が詰まっているんだよ〜!」と装丁が呼びかけている。

深澤索一:版画(刻・摺)、石坂洋次郎『雑草園』(中央公論社昭和14年6月)


深澤索一はゼッタイに採算度外視してタブローとして取り組んでいる。作家の手摺木版画ですよ。吉行エイスケ編集の前衛的文芸雑誌「買恥醜文」創刊号(買恥社、大正13年)でも前衛的な版画を創作しているが、やはりこれもタブローなんだな。多くの人が同時に楽しめるものこそ本物の芸術で、複製物こそ芸術なんだという主張がみなぎっている。

深澤索一:版画、「買恥醜文」創刊号(買恥社、大正13年