青山二郎の装丁料がほぼ大卒の初任給と同じだ、と言う事が分ったが、時代によってものの価値観が違うので、それだけでは客観的な換算にはならないので、別の方法で換算して見よう。同一出版社からの出版物と言っても書物の価格は一定ではないので、この方法も的確な方法とは言えないかも知れないが、刊本の定価に換算すると何冊分だったのか、という事を計算してみよう。

手もとにあるのは
北条民雄いのちの初夜』(創元社昭和11年)定價壹円三十銭
の場合だと、50円÷1.3円=約38.5冊分に相当する。
柳田国男『昔話と文学』(創元社昭和13年)定價壹円貳十銭
の場合だと、50円÷1.2円=約41.7冊分に相当する。




北条民雄いのちの初夜』(創元社昭和11年)定價壹円三十銭



柳田国男『昔話と文学』(創元社昭和13年)定價壹円貳十銭


最近の単行本の平均的な価格を2,000円と仮定すると、2,000×38.5冊=77,000円が青山の装丁料と言う計算になり、これは、決して高いとは言えない装丁料になってしまう。21万円なのか、7.7万円なのかでは、あまりに差が大き過ぎて、何れが正しいのか、適切な今日的な感覚の装丁料に換算することはできない。


それでは昭和初期の頃の書物は、かなり高いものだったと聞くので、今日の書物の平均的な本の価格を3,000円と高めに仮定してみよう。すると、3,000円×38.5冊=115,500円になる。逆に38.5冊で当時の初任給相当額21万円をもらっていたとすると当時の書物が今日のどのくらいの値段に相当するのかが分るのではないだろうか。21万円÷38.5冊=5,455円とかなり高い本になってしまう。『いのちの初夜』は並製本なので、そんなに高い本にも見えない。青山の装丁代がいったいどんなに高いものだったのかを、今日的に体感するのは、なかなか難しいようだ。


初版の発行部数(建て部数)が分れば、総売上予想額に対して装丁料が閉める割合が何パーセントになるのかをはじき出す事がででき、より正確に青山に対する待遇を判断できるのだが……。