ミノムシ30,000匹も集めた小島烏水『書斎の岳人』(書物展望社、昭9年)


 蓑虫を背に使った小島烏水『書斎の岳人』(書物展望社昭和9年)、背の部分を見ていただくと、一辺が2cmくらいの◇模様を確認できるものと思います。実は、これがミノムシの蓑一匹分なのです。この背には、30匹ほど使われれており、限定980部なので、約3万匹のミノムシが使われたことになる。 
 どうやってミノムシをこんなにたくさん集めたのか、その執着心には脱帽するしかありません。一匹一匹蓑を開いて、裏打ちして、と、製造工程を考えると、コレまた気の遠くなるような作業である。巻頭の「小記」から制作にまつわる話を転載してみよう。


一、少雨荘のあるじ、斉藤昌三君、本書の装釘のために、苦吟せられ、蓑蟲の蓑を、二ヶ月もかゝって、丹念にあつめ縫い合わせて、表紙の背に着せられた。「蓑蟲の音を聞きに来よ草の庵」(芭蕉)の閑静は吾書斎にないが、侘びしい山家の風情は、装釘の方にある。表紙は、南洋に産する一樹木を、板に挽いて、使われたといふ。本書中の變人畫家、ガウガンの「ノア・ノア」時代の生活と、一味相通ずる氣がする。また見返へしに、森林生活の聖者、ソローの住んだウオルデン湖の銅版深度圖を、原本から冩して、圖案代わりの應用したのも、江湖粛散の氣に打たれる、私は氣に入った。」と、この装丁を絶賛している。書影は小島烏水『書斎の岳人』(書物展望社昭和9年)表紙。


 蓑虫の加工法が、2005年11月25日の読売新聞「彩時記」という覧に掲載されていたので切り抜いてきた。長崎県諫早市の大坪敬一さんによる札入れの作り方だが、加工法は同じだろう。 
◎ミノムシを加工する  その記事によると「ミノを切り開いて手洗いし、小枝や葉を除くと弾力のあるフェルト状の「まゆ」が現われる。アイロンをあて乾かせば1枚の生地になる。これを接着剤でつないだりミシンで縫ったりして札入れを作る。一つ作るのに70〜80個のミノがひつようだそうだ。」とある。他にも群馬県では、着物や帯にミノをあしらう「ミノムシ工芸」がある、という。

 
◎ミノムシは絶滅危惧種  最近ミノムシを見る事が無くなったと思っていたら、東京だからという事ではなく、ミノムシの代表格のオオミノガは、中国から侵入してきた「オオミノガヤドリバエ」というハエが寄生し、ミノムシを絶滅に追い込んでいるのだそうだ。 200年以降、宮崎県や徳島県では、オオミノガ絶滅危惧種としてレッドデーターブックに記載。ミノムシは、ミノガ科に属するガの幼虫で、口から吐く糸で小枝や葉を器用にあしらいながら、丈夫で独特の風情を持つミノを織り上げる。