大貫伸樹の続装丁探索(ミノムシを使った『書斎の岳人』)16

shinju-oonuki2005-07-25

虫つながりで、もう一冊、ミノムシの蓑を使った本を紹介します。小島烏水『書斎の岳人』がその本。背の部分を読んで見ていただくと、一辺が2cmくらいの◇模様を確認できるものと思います。実は、これがミノムシの蓑一匹分なのです。この背には、30匹ほど使われれており、限定980部なので、約3万匹のミノムシが使われたことになる。
 
どうやってミノムシをこんなにたくさん集めたのか、その執着心には脱帽するしかありません。一匹一匹蓑を開いて、裏打ちして、と、製造工程を考えると、コレまた気の遠くなるような作業である。巻頭の「小記」から制作にまつわる話を転載してみよう。
 
「一、小雨荘のあるじ、齋藤昌三君、本書の装釘のために、苦吟せられ蓑蟲の蓑を、二ヶ月もかゝって丹念にあつめ、縫ひ合わせて、表紙の背に着せられた。『蓑蟲の音を聞きに來よ草の庵』(芭蕉)の閑静は吾書齋にないが、侘びしい山家の風情は、装釘の方にある。表紙は、南洋に産する一樹木うを、板に挽いて、使はれたといふ。本書中の蠻人畫家、ガウガンの「ノア・ノア」時代の生活と、一味相通ずる氣がする。」とあり、内容に見合った素材の装丁になっているようだ。
 
書影は小島烏水『書斎の岳人』(書物展望社昭和9年)表紙。