丹下左膳のキャラクターは、著者・林不忘のイメージではなく、挿絵家・小田富彌が創作した? これって文学は誰が作るのか、というような問題ではないのか?


新聞小説の登場人物のイメージは誰が確定するのか、以前から興味があった。服装や人相、背丈、太っているのか痩せているのか、着物の柄はどんなのが良いのか、などなど。絵を描くとなると決めなければならないことがたくさんあるはず。


新聞小説の場合はいきなり最初から主人公が出てくることもあり、執筆者と挿絵家は、綿密な打ち合わせをしているのだろうか? などと、他人事ながら心配になった。


それよりも、もし挿絵家がキャラクターを作っているとなると、新聞小説は誰が書いているのかと、もっと大きく出ると、文学は誰が作っているのか、というよな問題にもなってくる。


林不忘さんの『大岡政談』を頼まれたとき、編集の方が『これは映画になりますよ』と言うんです。だからひとひねり工夫をしろとね。そこで、本文には黒の紋付と書かれていた衣裳を、黒襟つきの白い着物に変えて、ぐっと派手にした。これがまあ当たったんでしょうな。」(『名作挿絵全集2』平凡社、1980年)と、小田富彌は、あの衣裳を考えたのは、自分だと言っている。



「むかしのナラズ者を描こうにも、参考にするものはほとんどなかった。後で月岡芳年が明治時代に描いたものを見たことはありますが、ヒントを得たのは芝居です。私は芝居が好きで、よく出かけたもんです。そのころ河原崎権三郎が演じたヤクザ者が、何となく私の頭に描いた姿にピッタリしたんですな。この権三郎をもっとキリッとしてやろうとね。それからあれこれと工夫しました。」(前掲『名作挿絵全集2』)