もう1冊、これも私にとっては大きな掘り出し物だ。鎌田弥壽治、伊東亮次『天然色冩眞術』(太陽堂書店、昭和4年)、装丁は東京高等工芸学校(千葉大学工学部の前身)教授・宮下孝雄。



幾何学形態を黒箔と金箔のはく押しだけで表現した装丁だが、知恵の輪のように複雑にからんだ文様は、あえて対称形を避けており、図形へのこだわりが伺え、インパクトも訴求力も備えた見事な出来栄えとなっている。幾何学的形態や抽象的な絵は、理工系の本ならまだしも、一般的には装丁に使うのは難しい。


宮下孝雄はデザイン理論家であり評論家で、あまり作品を残していないといわれている。そんなこともあり、デザイン作品ではさほどなじみのある名前ではないが、この装丁、は同じ東京高等工芸学校の同僚教授でもある著者からの依頼を受け、重い腰を上げて創作したものと思われる。


印刷と工芸にこだわり、アーツ・アンド・クラフツの考えに心酔し、ウイリアム・モリスを敬っい、印刷機械が作り出す全く新たな概念としての美を追求した。印刷機を単なる複製機械としてではなく、表現の道具としてとらえ、印刷機ならではのデザインを求めていた。日本の近代デザイン成立に向けたオピニオン・リーダーでもある。


数少ないと言われる宮下の作品でもあり、昭和モダンでアバンギャルドな装丁は、絶品といってよい。これも200円の均一本の中から見つけ出したものだ。高円寺古書会館「大均一祭」200円均一セール、バンザ〜イ、ですね。この他にもリュックいっぱい購入してきてしまった。