池田満寿夫の一冊丸ごと造本デザイン

装丁というと、付き物4点セットなどといって、ジャケット(カバー)、表紙、別丁扉、帯のデザインをすることを意味する事が多いが、コンピュータ導入のせいか最近ではデザイナーが一人で本文ページの組み版も含め、一冊丸ごとデザインすることが多くなってきた。


デザインだけではない。これらに使用する紙の選択は当たり前としても、写真やイラストのスキャンニングさらには校正入力まで押し付けられる? ようになってきた。それだけではなく、編集者は原稿を集めるだけで編集作業などほとんど何も手をつけないままで、いわば丸投げに近い状態で任される事も多くなってきた。しっかりペイされれば隅から隅まで一人で創作できる楽しさはあるのだが、こんな仕事に限って大体はどんぶり勘定で値切ってくる。



池田満寿夫も一冊丸ごとデザインするのを
「……今から考えると、やはり“ブック・ワーク”の完全な型はこの豆本のなかに見られるといってもいいかもしれない。これこそ全て自分の意志通りに一冊の本を造ったからである。本造りに対する私の基本的な、そして総ての要素が十冊の豆本の中にたたき込んである。あえて欠点を言えば小さすぎたことと、全く普及しなかったことであろう。」(『池田満寿夫BOOK WORK』)と、歓迎している。


「……豆本以外にこの種の本は私にも何冊かある。田村隆一『新年の手紙』〈写真上)、岡田隆彦『零へ』〈写真下)、ロルカ『ジプシー歌集』などである。これらの場合は版型から私が選択した。」と、一冊丸ごと造本デザインを手がけた事を誇らしげに書いているのをみても、「一冊丸ごとデザイン」は創作するものにとっては魅力的なことなのだ。




さらに「……本は眺めるだけではなく手にとって開いて見るものである。この点陶器に似ていなくもない。いや骨董的・美的価値が高まっても使うものなのだ。そういう意味でカバーだけに絵を描く装丁は好きではない。それは装丁ではなく単なる装画である。最近では、単に装丁とは言わないで造本デザインというようになって来た。さしずめ豆本はその造本デザインの好例であろう。装画、装丁、造本デザイン、それぞれ本に対するかかわり方の度合いの違いを示している。そして本造りの本命は造本デザインにあることはまちがいない。」と、一冊丸ごとデザインすることを本造りの本命といっている。たしかに、一冊丸ごとデザインすると自分の作品なんだ、という感じがして愛着が湧く。


下の写真、岡田隆彦『零へ』これが池田のこだわりの造本デザインだ。上から函、コラージュを取り入れた表紙、裏面まで印刷したガンダレ見返し、片観音〈片側だけ折る)の本文、とどれをとっても池田の意気込みが感じられる見事なデザインだ。普段は折り込んでしまえば見えなくなってしまうので白地のままにしてあるのが普通だが、ガンダレの裏面から見返しへと続く写真は、池田の強い主張で印刷されたものと推察する。三角形の中に組んだ本文やトレーシングペーパーに三角形に印刷した本文もその斬新なアイディアはさすが世界の池田だ。重ねると丁度矩形になる。この本は古書価も安く入手しやすいので造本に興味ある人にはお勧めの一冊だ。吉祥寺の古書店「百年」で、たしか1500円で売っていた。