池田満寿夫の装丁……佐藤春夫『青春放浪』

池田満寿夫は、佐藤春夫他著『青春放浪』(宮坂出版社、昭和37年)の装丁をしたときのことを
「装幀で大金をもらった第一号は、『青春放浪』である。これは読売新聞の海藤日出男氏が出版を要求した。小出版社には不当に高額だったが、海藤氏の要請ということで承諾してくれた。当時の二万円の装幀料は私の二ヶ月分の収入に相当したのである。しかしそれは一般の相場としては安い方だったに違いない。そしてあとにも先にも自分の方から装幀料を提示したのはこれが最初で最後だった。以後は先方に基準を任せている。」(『池田満寿夫book work』)と、書いている。



池田の装丁が仕事として認められた初めての作品というわけだ。それも読売新聞という看板の後押しを受けての苦しい仕事成立だった。初仕事といっても装丁をしたのが初めてというわけではない。


池田の記憶によると、最初に装丁した本は富岡多恵子『カリスマのカシの木』(飯塚書房、昭和34年)だという。その頃の事を「これは出版社からの要望というより、当時恋愛中だった彼女からの出版社への要望であった。」(前掲)と、受注のいきさつをかたっている。



「私の方はほとんど無名に近い画家だったが、彼女はH賞を受賞した新進の詩人で第二詩集の装幀者に私を選んだ。どちらからいいはじめたことか忘れてしまったが、出版社はあまり喜ばなかったようだ。出版社にとって私の腕前は完全に未知数だったからである。装幀料はとうとうもらわなかった気がする。」(前掲)と、晩年の池田を知る私には考えられないようなほろ苦いデビューだったようだ。


確かに、初めての装丁ということでつたなさは否めないないが、発売当初は360円の本が今では古書価12000~15000円もする大変な値打ち物だ。
写真は『池田満寿夫 book work』から転載。