モダンな装丁

shinju-oonuki2005-12-15


恩地孝四郎装丁、トロッキイ、青野季吉訳『自己暴露』(アルス、昭和5年)は、函なしだが、古書市で800円で購入した。高価な本は手が届かないし、逆に、安い本は目録やインターネットには掲載されず、なかなか購入できないことがある。
 
この頃の恩地は、装丁家としてすっかり認められ、自由奔放な装丁作品の創作を許されていたようで、それまでは、ほとんど実現できなかった、幾何学的な模様を使った装丁を次々に発表している。手書きの激しい印象のタイトルを大きく配した、文字主体の表現主義的なデザインはこの時期の装丁の特徴でもある。
 
村山知義や岡田龍彦らが装丁レイアウトした萩原恭次郎『詩集 死刑宣告』(長隆舎、1926年)は、恩地の装丁感に大きな影響を与えたようで、「本文のなかにすべて図案的な配慮による装備を施し、多数の新傾向絵画その多くは版画を挿入している。現在まで、あれほど本全体を図案化したものは他にないだろう」(恩地孝四郎『本の美術』成文堂新光社、昭27年)と驚異の目で見ている。
 
こんな体験が恩地の装丁作風を大きく変化させ、その実験的な成果が、1928年に60点あまりの楽譜の装丁を手がけた『コドモノソナタ』である。更には1930年頃から沢山手がけるようになった写真の技法書は、恩地の長い間の念願だった「非自然的絵画による装本」を現実のものにする場を提供することになった。
 
『自己暴露』はそんな恩地の抽象的絵画や図案による装丁の進化の過程で生まれた作品で、伸び伸びした構成からは、恩地の気持ちの入れ込み具合がうかがわれる。