斎藤昌三の著者所蔵本……?

shinju-oonuki2005-12-09


金沢の明治堂書店から斎藤昌三『ずいひつ69』(有光書房、昭和37年)が届いた。斎藤昌三が亡くなったのは昭和36年11月なので、この本は遺著となる。斎藤の49日に発行された昭和37年2月15日発行の「古書通信」に、「現在進行中の遺著では『書物の美』(青園荘)、『随筆69』(有光書房)、明治の時計(書痴往来社)」とあるので、49日の段階では制作進行中の本だったようだ。
 
  
表紙3には、斎藤昌三の蔵書票が貼りつけてあり、扉には「少雨荘」の落款があるのだが、まさか死人が押すわけがない。本日初めて手にした一冊しか見ていないので、何ともいえないが、初めから蔵書票と落款が付いている装丁で、限定本はどの本にも蔵書票と落款があるのかもしれない。限定本なので蔵書票を付けるくらいの遊びがあるのかな? ともおもえる。
 
   
発行日は壬虎(*昭和37年)孟春となっているが、昭和36年2月1日付の前書きがあるので、この本の企画は生前から進んで、生前に書き終わっていたものと思われる。その前書に、山路閑古老に「書誌や文献上で多年の功績を積みながら、反面軟派の紹介に依って誤られてもいるから、今後はその方面の筆は断って欲しい」と『紙魚地獄』出版記念会の席上でいわれた、とある。しかし、その3日前に刊行の約束をしてしまったらしく、山路の意にそぐわない『ずいひつ69』は進行してしまい、「山路君、ご親切を無にして済まない。」と謝っている。
 
タイトルの「69」はもとより、表紙3及び、全ページの背景に銀色で印刷された書物展望社ロゴマークは、江戸時代には女陰を示す記号であったと聞くので、隅から隅まで際どい表現である。(*天地が逆だが、NTTのロゴや第一書房のロゴも良く似ている。)
 
  
蔵書票に至っては、悪友たちの仕業かもしれないが「全く懲りない奴」との賛辞を送りたい。山の谷間を描いた風景画に見せかけたつもりだろうが、あまりにも拙く、誰が見てもだまし絵には見えない。写真左は表紙3に貼ってある斎藤昌三の淫靡な蔵書票だが、「済まない」といいながら、山路の忠告をせせら笑っているかのようにも見えて、死しても直悪たれ坊主振りを発揮しており、ほほ笑ましい。
 
   
装丁には、遊び心が今一つ足りない感じがして、ゲテ本というには少しおとなしいのは、斉藤自身の創案ではないのかも知れない。