【101冊の挿絵のある本(14)…… 木村荘八:画、永井荷風『濹東綺譚』の挿絵を紹介します。】

【101冊の挿絵のある本(14)…… 木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」岩波書店1937[昭和12〕年)の挿絵を紹介します。この本には33点の挿絵が入っていますが、今回はそのうちの20点を掲載します。

「荘八描く、娼婦お雪は下町の気安い、さっぱりした気性の中に、心のいじらしさを失わない女のイメージをそのペンで彷彿させており、荷風の抱いたお雪像を読者に強く印象づける魅力をもっていた。」(匠秀夫『日本の近代美術と文学』沖積舎、昭和62年)より。

 

◉紙は「パピエ・ピエロー」(「濹東綺譚の記」久 比佐夫)
「下町の風俗を油絵や挿画に描写しては随一の人で、自他と共に認められた仕事ぶりだったと思います。
 ところで、先生の挿画の仕事で特に実感の深いのは『濹東綺譚』です。
 ある日、先生の机の前に私が座ってさしえを拝見させていただいた時だった。そのさしえ用紙はいわれがあるのだというのです。山下新太郎先生に『君は挿絵をやっているのだから是非使ってみてくれ』と渡された紙が、パピエ・ピエローという向こうの『さしえ』専門の用紙だった。先生が『濹東綺譚』に使っておられたのはその紙です。この紙は実に『さしえ』の種々のマティエールに適した質をもち、先生も驚いていられたのが記憶に浮かんできます。
 『濹東綺譚』のテキストに忠実な研究心にも私は感服しました。原稿に出てくるあの玉ノ井周辺は重要な舞台なので、先生は足でスケッチにまわり、実に厳密なメモをとられていたのには、若い画学生の私達も大いにケイハツさせられたほどです。」(「えくらん」3.4号、昭和35年1月)

 

◉挿絵の画用紙
さて「濹東」だが、ここでかれは挿絵技術上のメチエ・グールでも山下新太郎に贈られたフランス製のパピエ・ジロという純白のボール紙ぐらいの厚さのある画用紙を使って、新しい境地を拓いた。
 かれはこの紙にルーラーで全面へベタに地色をかけ、それに針で素描をして白線を自在に生かしたのである。それは「濹東」第七回、「トタン葺きの陋屋(*ろうおく/狭くてみすぼらしい家。また、自分の家をへりくだっていう語)が秩序もなくごたごたに建てこんだ」町、第8回にわか雨の場面で「女は傘の柄につかまり、片手に浴衣の裾を思うさま捲り上げた」場面、以下十八回、二十一回、二十二、二十四、三十二、三十三回にこの手法を実にうまく、製版効果を適格に計算して生かしている。
 かれの凝り性は、独特の挿絵の世界にたのしくのさばるのである。(高木健夫「木村荘八論」(「大衆文学研究」第18号、1967年)

 

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永井荷風:装幀、永井荷風『濹東奇譚』函(岩波書店昭和12年

 

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永井荷風:画、永井荷風『濹東奇譚』表紙(岩波書店昭和12年

 

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木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」口絵(岩波書店昭和12年

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木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」挿絵(岩波書店昭和12年

 

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木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」挿絵(岩波書店昭和12年

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木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」挿絵(岩波書店昭和12年




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木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」挿絵(岩波書店昭和12年

 

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木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」挿絵(岩波書店昭和12年

 

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木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」挿絵(岩波書店昭和12年

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木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」挿絵(岩波書店昭和12年

 

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木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」挿絵(岩波書店昭和12年

 

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木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」挿絵(岩波書店昭和12年

 

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木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」挿絵(岩波書店昭和12年

 

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木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」挿絵(岩波書店昭和12年

 

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木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」挿絵(岩波書店昭和12年

 

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木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」挿絵(岩波書店昭和12年

 

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木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」挿絵(岩波書店昭和12年

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木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」挿絵(岩波書店昭和12年

 

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木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」挿絵(岩波書店昭和12年

 

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木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」挿絵(岩波書店昭和12年

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木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」挿絵(岩波書店昭和12年

 

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木村荘八:画、永井荷風「濹東綺譚」挿絵(岩波書店昭和12年

 

岩波文庫の『濹東奇譚』にも、たくさんの挿絵が掲載されています。私が所蔵している1991年改訂第41刷は定価260円(本体252円)です。

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永井荷風『濹東奇譚』(岩波文庫、1991年改訂41刷)