釘で綴じられ書物『皇太子殿下御外遊記』

【捨てられない本】大正期の文芸書などにはブックデザインを「装幀」「装丁」「装訂」のほかに「装釘」という表記がある。書誌学書などには同じ音から来る誤った表記などと書かれてるが、釘で綴じられ書物を偶然発見。それが『皇太子殿下御外遊記』(東京日日新聞社ほか、大正13年)。


 注意して欲しいのはノド(綴じてあるところ)にある二つの赤さび。これが、釘で製本してある証拠。製本の歴史には出てこないこの製本について「印刷雑誌」「釘を使った製本と『装釘』」(「印刷雑誌印刷学会出版部、2004年5月号)に詳しい報告をした。



当時最新の製本としてドイツから輸入された針金綴製本(週刊誌等で使用)ではこの分厚い本を綴じることが出来なかった。



鍛冶屋さんが一本ずつ打ち出して作る和釘(上)と、明治期の東京に大火が相次ぎ釘の需要が激増、沢山の釘が輸入されたが、明治45年に国産初の洋釘(下)の生産が始まり、この釘が製本にも使われた。


釘の歴史は、安田善次郎『釘』(非売品、大正5年)に詳しく書かれている。