花咲くことを封じられてゐる羊歯が好き、前田夕暮『草木祭』

昨年入院していた病院の窓から、借景の森に私の腰くらいの丈の羊歯(しだ)の群生が見え、太古にタイムスリップしたような気分になれて、この窓辺で眺めるのが楽しみだった。羊歯は花も種子もなく繁殖するため、欧米では古くから魔法の草とされ、繁栄と長寿を願う飾り物にされているという。


そんな羊歯について前田夕暮は「わたしが草になるとしたら」に、「あらゆる植物が花をつけぬものがないのに、この羊歯丈は花を決して咲かせようとしない。あの極めて重厚な葉を四方にのばしてゐて、一向に花をつけそうにないない竜舌蘭でさへ、六十年に一回花をつけるといはれてゐるのに、この羊歯類は永久に花咲くことを封じられてゐる。花を内部に潜めて、その葉にのみ生きる此植物は、私の心にふれてくる。しかも、羊歯の水を限りなく楽欲する心は私の心に親しみを到底惹きおこさずにはおかぬ。私は思いきって羊歯にならうか。」(前田夕暮『草木祭』ジープ社、昭和26年)と、羊歯との相性がよさそうだ。

盛口滿『シダの扉』(矢坂書房、2012年)