竹の根になって屋敷に入り込む前田夕暮『草木祭』

 実家の山小屋の建屋から30mほど離れたところに竹やぶがあり、ちょっと油断をしているとこの竹やぶがドンドン建屋に迫ってくるので、毎年タケノコとの領地侵犯をめぐっての攻防が大変だと母が嘆く。


 前田夕暮は「私は竹である」で、母の宿敵である竹の根になりきって「ほのあたたかい日のぬくもりを感じながら、竹林から這出し、うす青い花をつけてゐる馬鈴薯の畑の湿った土のなかを通り越して、私の尖った白い神経はぐんぐんと、竹の本能で延びるだけ延びようとしてゐる。……びしょびしょと毎日々々雨が降って、土のなかまで暗く湿っぽくなつて来る。が、私は昼夜となく唯さきへさきへと延びて行く。私は、夏のなかば頃、たうたう母屋の土台下の固い赭土を通り越して、最初の目的通り、土間のなかへこっそりと這入り込んで仕舞ふ。」(前田夕暮『草木祭』ジープ社、昭和26年)と、竹の根が屋敷に入り込むまでの土のなかの生活ぶりを報告している。タケノコは手ごわい侵略者だ。


人間に敵視されるタケノコがあると思えば、村に豊かさを届けてくれたタケノコもある。

瀬川康男:画、松野正子「ふしぎなたけのこ」(福音館書店、1963年)
は、山奥の集落に、タケノコが海までの道を開いた話。