❼麝香の香りのする特殊印刷『紙魚地獄』(書痴往来社、昭和34年9月)



造本:峯村幸造、齊藤昌三『紙魚地獄』(書痴往来社、昭和34年9月)。隅々まで神経の行き届いた繊細な装丁だと思ったら、なんと、昌三ではなく、峯村が装丁を担当していた。納得。


巻末にある峯村幸造の跋文では
「私にとってはこの本は処女刊行でもあり翁の全快の祝賀の意味もあるので、微力乍ら用紙に、書影に、印刷に、装幀に最善の努力をつくしたつもりである。特に特製の用紙が越前特漉の鳥の子に二色の模様を漉込み、それへ翁のマークと書名がウォター・マークされているという如き、またその放香期間が約一ヶ月とはいえ特殊香料印刷を普製、特製の全冊に施したという如き、更に装幀については、田沢茂画伯の特殊版画を生かして、普製はこれを法衣を、特製は苦心研究の結果、合成樹脂を始めて完全に装幀材料として使いこなすという如き、書誌的にも特筆されるべき豪華本となったことを、誇りとしている。」


と、峯村の渾身の造本であることを強調しているだけあって、見事なゲテ本に仕上がっている。特に裏表紙にメタリックカラーで題字を印刷し、その上に「八幡、佐々木の両僧正から……法衣を頂戴した」という絽のような透けている布を張り合わせてあるのが効果的だ。本文は50年も経過した今でも芳香がを放っており、ジャコウの毒気に当てられたのか、文字を起しているうちに頭が痛くなってきた。



紙魚地獄』内容見本,、A5判5ページ片面刷り。
表紙には「この空白の部分にジャコウの特殊印刷校了を試刷り致してあります。本文中の放香期間は一ヶ年と大日本インキ株式会社では申していますが、二重函入りの本書は二ヶ年位…とか。雑誌では「週刊読売」ローズ色表紙に致しましたが、単行本では本書が始(ママ)めてということです。この広告用紙は特製の本文用紙の袋綴じに使用できないヤレ紙を見本として使ってみました。普製の見返しにも仕様してあります。」とあり、内容見本にも香料入りの印刷をしていたのが分る。