最近では、新聞小説が単行本になっても、挿絵が掲載されることは希になってしまった。中一弥の新聞掲載時の挿絵が載っている、村上元三『五彩の図絵』上、下(朝日新聞社、昭和49年)を見つけた。佐多芳郎が装丁しているので、まさか、本文中に中一弥の挿絵が載っているとは思もってもいなかったので、見つけたときは感激でした。しかも上下巻セットで200円と格安だったのが嬉しさを倍増させた。所沢まで行った会があった。



佐多芳郎:画、村上元三『五彩の図絵』上、下(朝日新聞社、昭和49年)、佐多芳郎の装画にしては華がない。


新聞掲載時の挿絵が378回分全て掲載されているわけではありませんが、それでもありがたい。村上元三『五彩の図絵』上巻の最初に登場する挿絵は下記のものだ。が、これは連載時の最初の挿絵ではなく、第8回目の挿絵だ。なぜ? これでは、ちょっと物足りない、不満だ。第1回の挿絵を是非とも掲載して欲しかったのに。



中一弥:画、村上元三『五彩の図絵』上巻(朝日新聞社、昭和49年)


第1回に掲載された挿絵は下記のもので、私にとっては何といってもこの最初の1枚がいちばん重要なのだ。それで、「村上元三『五彩の図絵』新聞連載小説切り抜き387回揃い」というのをネットで見つけ、清水の舞台から飛び降りるつもりで、なけなしの財布の底を叩き購入してしまったぁ〜。この第1回目の挿絵が欲しくて。


中一弥:画、村上元三『五彩の図絵』第1回(朝日新聞、昭和48年)


「きのうまでの雪が、これほど積もらなかったら、春日今之助は、まっすぐ桜田門外の上杉家上屋敷へ帰っていただろう。」(村上元三『五彩の図絵』第1回、朝日新聞、昭和48年)という書き出しで始まり、この挿絵がついている。


うっ、雪に負けての外泊か? ということは、寝床にいるのは奥方ではないのか? 鏡も女物だし。さすがに、人気を博した連載小説だけあって、いろいろなことを空想させられる見事なイントロだ。この絵のどこまでが、著者の指示があったのか。鏡の形などは挿絵画家が勝手に描いたのか。新聞小説の場合は、時間が限られており挿絵画家の裁量に任されていた部分が多いのだろうか。


村上は第1回目に春日今之助の風貌を詳しく書いている。「袴をつけ、脇差を帯へさしながら、今之助は答へた。……細面で、切れの長い眼、やや高すぎる鼻、うすい唇に妙な色気がある。ことし二十二歳、まだひとり身で、遊び場へ行けば女に大切にされる。しかし、女におぼれず、むだに金を使わないのが、今之助の信条であった。……羽織を着て、大刀を手に、廊下に出ながら今之助は、低くお辻へ言った。」と。
現在のタレントで言うとNHK大河ドラマ「天地仁」で石田三成を演じている小栗旬のようなイメージなのか。


第1回目の原稿だけが、今之助に関する挿絵のための資料なのだろうか? そうだとすれば挿絵家に与えられた裁量は大きい。いわば、勝手に描いてくれ、ということなのだが。池波正太郎の場合は本人が装丁や挿絵を描くほどに絵が巧いので作家が描いたイメージがなどがつけられてくるらしいが、例外といえる。


一体、村上元三と中一弥氏は、この連載を始めるにあたって、キャラクター作りのための打ち合わせをしたのだろうか。知りたいなぁ、そこんところを。