1861(文久元)年に「イラストレイテッド・ロンドン・ニューズ」の特派通信員として来日し、「東禅寺浪士乱入の図」を水彩画で描き、近代水彩画と日本を初めて出会わせた人物として知られる、イギリス人画家チャールズ・ワーグマンのカラーの絵が掲載されている文庫サイズの本、不破章『水彩画入門』(保育社、1976〈昭和51〉年)を見つけた。

ネットの古書データをみてみると昭和51,52,53,56,59年刊等がヒットし、小さな判型の入門書であるにもかかわらず、良く売れた本であることが分る。



チャールズ・ワーグマン「風景」


著者の不破章(1901〜1979)は、石井柏亭に師事し、日本水彩画会理事長をつとめており、日展会員でもある。そのせいか、師でもある石井柏亭の水彩画が、5点掲載されている。



石井柏亭「草上の小憩」大正2年
キャプションによると、「国立近代美術館所蔵の六十号油絵のための下絵です。……下絵とはいえ、小品ながら、モデルを使ってしっかり描いてあります。モデルは右端は鶴三、中央前の女性はこう女、共にご兄弟や姉妹。(十号くらい)」と、柏亭と交流があった著者ならではのコメントが記されている。それにしても石井鶴三がモデルとは、豪華な話だ。



石井柏亭「脇息に倚る女」水彩
「この絵は先生が二十歳頃の作。一生写実を貫かれた信念は若い時代の習作と思われるこの絵によくうかがわれます。脇息に片肘をあずけたポーズの明治女を、透明描法で丹念に描いており、和服の模様を描きながら、衣服に包まれた人体の動きと肌のやわらかさをよく観察しています。(用紙はワットマン小版半切荒目)」不破章『水彩画入門』(保育社、1976〈昭和51〉年)と、柏亭の水彩画はいずれも見ごたえがある。