前回、挿絵のサインに「剣をもって一家をなす彦造画」などと書き入れたのをはじめ数々の奇矯な振舞いをするようになり、それがために一時ジャーナリズムから敬遠されていたが、昭和12年、吉川英治「天兵童子」の挿絵に伊藤新樹の名で再び返り咲いた。
と書いたが、その敬遠された落款(サイン)を見つけた。
挿絵:伊藤彦造、大佛次郎「角兵衛獅子」(「少年倶楽部」、1927〈昭和2〉年)
挿絵:伊藤彦造、吉川英治『萬花地獄』(「キング」、1927〈昭和2〉年)
伊藤彦造の「自一家成」という標語入りの落款拡大
拡大した落款には「大和魂ヲ養成セヨ」「自一家成」とある。説明の必要はないと思うが、これは、よく浮世絵などにある絵のタイトルや内容に関する説明ではない。彦造自身のメッセージであり主張なのだ。この辺が、彦造の彦造たるゆえんで、他の挿絵画家との一線を画するところのようだ。