伊藤彦造のメッセージ入り落款をもう一つ見つけた。



挿絵:伊藤彦造『飛沫──平手酒造』



伊藤彦造の落款の隣に「決死の努力なくんば大成せぬぞ」「憂国ノ絵師伊藤彦造畫く」が書かれている。このメッセージ付の落款こそが、メディアから嫌われ、しばらく仕事を干されることになった原因そのものだ。そんな彦造に手を差し伸べ、復活を可能にしたのが、前記の吉川英治の「天兵童子」での挿絵家ご指名だった。このような厚意に対して特に感じやすい彦造が、誠心誠意ご恩と奉公の意識で、挿絵に向かった事は想像に難くない。「天兵童子」は彦造の代表的仕事になり、著者と挿絵画家の息の合ったコンビぶりが大ヒットを作り出した。