これが大同出版社、木田重三郎『これ丈は知らねばならぬ 慰問文の書方』(昭和15年12月)



時局がら仕方がないとは言え、この戦地への激励の手紙は銃後の者に課せられた義務である、とする脅し文句で始まるこの本は、いかにも第二次世界大戦中の出版物らしく統制を逃れるための企画で、櫻井書店で見せた出版人気質はどこえやら、と思わせる。


この「これ丈は知らねばならぬシリーズ」は、『これ丈は知らねばならぬ 慰問文の書方』の巻末広告を見ると

潮田郎風『これ丈は知らねばならぬ 詩吟と剣舞
八尾直三郎『これ丈は知らねばならぬ 挨拶と演説の秘訣』
和田 実『これ丈は知らねばならぬ 囲碁定石』
中村熊治『これ丈は知らねばならぬ 将棋定跡』
木田繁三郎『これ丈は知らねばならぬ 慰問手紙の書き方』
八尾直三郎『これ丈は知らねばならぬ 出兵兵士挨拶の仕方』
松廼家米吉『これ丈は知らねばならぬ かくし藝全書』
木田重三郎『これ丈は知らねばならぬ 手紙上達の秘訣』
前波仲子『これ丈は知らねばならぬ 座談の秘訣』

が掲載されており、誠文堂の『是丈は心得おくべし』シリーズとは似て非なるもののように思える。比較のために誠文堂のシリーズ『演説座談洒落滑稽』の巻末広告をみてみると
加藤美侖『社交要訣 是丈は心得おくべし』
加藤美侖『日常法律 是丈は心得おくべし』
加藤美侖『演説座談洒落滑稽 是丈は心得おくべし』
加藤美侖『保健衛生素人医学 是丈は心得おくべし』
加藤美侖『書画骨董建築装飾 是丈は心得おくべし』
加藤美侖『金銭活用安全利息 是丈は心得おくべし』
加藤美侖『手紙文章必須要訣 是丈は心得おくべし』
加藤美侖『最新商略商業常識 是丈は心得おくべし』
加藤美侖『新しい問題と主義主張 是丈は心得おくべし』
加藤美侖『日常科学最新知識 是丈は心得おくべし』
加藤美侖『日用文字机上便覧 是丈は心得おくべし』
加藤美侖『男女間の衛生 是丈は心得おくべし』
加藤美侖『宴席座興かくし藝 是丈は心得おくべし』
加藤美侖『日常礼法家庭儀式 是丈は心得おくべし』
加藤美侖『諸願届諸契約 是丈は心得おくべし』

の16冊が記載されており、大同出版はこのシリーズを参考にはしたのだろうが、独自の著者に依頼した企画だ。


それにしても、小川菊松のいう「私が散々売り尽くした『是丈は心得おくべし』のボロ紙型を買って、更に通信販売によって儲けたこともある。」といっている大同出版刊の『是丈は心得おくべし』は中々発掘することができない。やはりこのような実用本は残らないのだろうか。