忠弥への言い掛り!


結城音彦さんのブログには忠弥の人柄を知ることができるおもしろいエピソードも書かれているので転載させていただこう。


俳人石川桂郎氏の『回想の文学歴遊』と題するものの一部である。

ある晩、私は高橋忠弥氏と突然大喧嘩をやらかしてしまった。それは全く私自身にも予想しなかった、平素の心持とは逆な暴言を高橋氏にあびせてしまったのだ。酒の上とはいえ取り返しのつかぬ大失態というほかない。
「何んだ、お前さんの画は、犬のウンコみたいな鴉ばっかり描きやがって・・・・」 
 高橋氏は、もちろん激怒した。丁度同じ画会の岡部文之助が一緒だったので、岡部氏が承知しなかった。
「高橋、こいつは何者だ、生意気な奴だ、ナグってしまおうかい」
 けれども私が肝に命じてこたえたのは、次のような高橋忠弥の言葉だった。
「俺の絵を犬の糞だという、お前は、いったいどんな仕事をしてきたのか。仕事らしい仕事があったら言ってみろ」


 私は忽ちヘナヘナとなってしまった。全身の虚脱感と底知れぬ寂寥感から、私は椅子に坐っているのも苦しかった。私は忠弥さんに心から詫びた。寛容な忠弥さんはそれっきり私を許してくれたらしい。
 私はその後、彼のアトリエをいく度か訪ねているが、その都度虫のいいおねだりをして帰ってくる。「俳句研究」の表紙絵を描いて貰ったこと、思わぬ成り行きから私が主宰誌をもつハメとなり「風土」の表紙絵ばかりかカットまで頂戴したこと、申しわけないことばかりである。



ケンカをしたのがいつの頃だったのかは知らないが、掲載した『石川桂郎集』(私家版、昭和43年)の装画もそういわれれば、言い得て妙だが、やはり言ってはいけない言葉だったかも知れないですね。結果、より親しくなれたようですが、こんな時に怪我の功名というのでしょうか。