表紙や見返しにもこだわる高橋忠弥の装丁

■高橋忠弥の装丁書誌リスト4


細川隆元『大狸小狸』(信友社、1957[昭和32]年)
駒田信二『石の夜』(角川書店、1957[昭和32]年)
深沢七郎楢山節考』(中央公論社、1958[昭和33]年)第1回中央公論新人賞
・藤大路春彦『背徳』(知性社、1958[昭和33]年)
・藤大路春彦『背徳』第二部(知性社、1958[昭和33]年)
戸川幸夫『悲しき獣』(六興出版部、1958[昭和33]年)
・保高徳蔵『道』(東方社、1958[昭和33]年)
井上友一郎『蝶になるまで』(光風社、1958[昭和33]年)
・町田トシコ『かんころめし』(中央公論社、1958[昭和33]年)
川口松太郎『非情物語』(講談社、1958[昭和33]年)
・有賀喜代子『子種』〈中央公論社、1958[昭和33]年)








楢山節考』「かんころめし』は、カバー(ジャケット)だけではなく、表紙も4色刷りで、どちらをカバーにしてもよいほどの出来栄えだ。『楢山節考』に関しては私は表紙の方が好きだ。通常は、経費を抑えるために、ジャケットに隠れてしまう表紙はカラー印刷にはしないことが多い。この頃から忠弥はジャケットだけではなく、表紙や見返し別丁扉などにも別々の挿し絵を描いている。この過剰サービスとも思われる装丁は、忠弥の装丁のもう一つの魅力となって、コレクションの楽しみを増している。


カラーの表紙絵をカラーで印刷してもらえるのは、忠弥の装丁に関する発言力が強くなっているということでもある。本作りへの興味はさらに増していき、何事にも一途な忠弥が、1冊1冊にかなり気持ちを込めて創作していくようになっていく様子を装丁を眺めていると読んでとることができる。


1957〜59〈昭和32〜34)年にかけては、忠弥が最もたくさん装丁を手がけている期間でもある。第1回中央公論新人賞受賞作の『楢山節考』はベストベストセラーになり、装丁も高い評価を受けるようになる。毎月のようにさまざまな出版社から仕事が舞い込むようになり、気分も良かったに違いない。そんな気分の高揚が、装丁でお返しするかのような過剰なサービスをさせたのではないかと推察する。
忠弥の装丁本は、この時期に関してだけでもまだまだたくさん見つかりそうな気がする。