手描きタイトルの本…その1

【手描きタイトルの本…その1】

手書きの帯をつけた本が売れているという。「活字離れやソーシャルメディアの拡大などで出版市場が縮むなか、フェルトペンや筆で書いたような文字が躍る帯を巻いた本が売れている。出版社の編集者らが、キャッチコピーを考えて手書きした文章を印刷したものだ。何が読者を引きつけるのか。
『トラウマ級! 全国民必読の怪作学習漫画
フェルトペンで書いたような赤の太字が目立つ帯を巻いた水木しげる著『劇画ヒットラー』(ちくま文庫)が6月、全国チェーンのくまざわ書店に並ぶと、全国で月に数十冊程度だった売れ行きが、1カ月で260冊を記録した。…」(『朝日新聞DIGITAL』2016年8月29日)らしい。

手書き風の帯の文庫本が人気を集めている=時津剛撮影(「朝日デジタル」2016.8.29)



 数年前に小説『人間失格』の表紙を『DEATH NOTE』でお馴染みの人気漫画家・小畑健氏が描いたことで、約1カ月半で7万5000部を売り上げ、古典的文学では脅威のベストセラーとなったこともあった。

小畑健:装丁、新装版・太宰治人間失格」(集英社文庫、1990.11)


 ならば、手書きのタイトル文字はどうか?
 活版印刷では初号活字(14,76mm)が最大で、それより大きな文字は全て原寸大の文字を手書きで描いていた。写植機が発明されて、大きな文字を印字することができるようになったが、それでも既存の書体とは違った表情を持つ文字は手書きで描かれてきた。パソコンでさらに大きく印字できるようになり、書体数も大幅に増えてきたが、それでもどっこい手書きの文字の存在価値は揺るがない。

そんな手書きのタイトルの本が大きな話題になる日が来るかもしれない! そんな期待を込めて、手書きのタイトルの本の素晴らしさをアピールする意味もこめて、昭和期に刊行された本を眺めてみよう。


「手書き文字こそ、日本語タイポの神髄だ。」という「pen」(2004年No.150)の記事で、佐野繁次郎花森安治河野鷹思をとりあげているが、まさに手書き文字の泰斗といってもよい三人だ。
 佐野繁次郎は、活字以上の表現力に充ちた「手描きのタイポグラフィ」を自在に扱い、文字だけで豊かな表情の装丁を造り続けた。

暮しの手帖』の編集長としてしられる花森安治は、温もりのある読みやすい手書きの文字を雑誌の記事の見出しにあしらい親しみのある紙面構成に成功している。花森は大学時代に、パピリオ化粧品の社内で独創的なアートディレクションをフランスがえりの佐野繁次郎の元で働いた時期があり、いわば佐野のお弟子さんでもある。

写真上段=佐野繁次郎(1900-1987年)の装丁本
横光利一『機械』(白水社昭和6年
・江原順『モンパルナス動物誌』(ノーベル書房、昭和44年)
源氏鶏太『ボタンとハンカチ』(中央公論社、昭和41年)

写真下段=花森安治(1911-1978年)の装丁本
松田道雄『われらいかに死すべきか』(暮しの手帖社、昭和46年)
・ベンジャミン・スポック『スポック博士の性教育』(暮しの手帖社、昭和50年)
福原麟太郎『人間世間』(暮しの手帖社、昭和45年)




写真上段=棟方志功(1903-1975年)の装丁本
谷崎潤一郎『瘋癲老人日記』(中央公論社、昭和37年)
谷崎潤一郎夢の浮橋』(中央公論社昭和35年
谷崎潤一郎『鍵』(中央公論社、昭和31年)

写真下段=芹沢硑介(189-1984年)の装丁本
・芝木好子『杏の花』(芸術生活社、昭和51年)
獅子文六箱根山』(新潮社、昭和37年)
野尻抱影『星の方言集 日本の星』(中央公論社、昭和48年)




写真上段=田村義也(1923-2003年)の装丁本
安岡章太郎『もぐらの言葉』(講談社、昭和44年)
井上光晴『小屋』(講談社、昭和47年)
安岡章太郎『セメント時代の思想』(講談社、昭和47年)
・金石範『火山島』(文藝春秋、昭和58年)

写真下段=平野甲賀(1938年 - )の装丁本
目黒考二『本雄雑誌風雲録』(本の雑誌社、平成20年)
筒井康隆ロートレック荘事件』(新潮社、平成2年)
小林信彦『ぼくたちの好きな戦争』(新潮社、昭和61年)
木下順二『本郷』(講談社、昭和58年)



写真上段=和田誠(1936年- )の装丁本
・つかこうへい『幕末純情伝』(角川書店、昭和63年)
色川武大『虫けら太平記』(文藝春秋、昭和64年)
三谷幸喜『怒濤の厄年』(朝日新聞社、平成14年)

写真下段=山藤章二(1937年- )の装丁本
星新一『殿さまの日』(新潮社、昭和47年)
井上ひさし『戯作者銘々伝』(中央公論社、昭和54年)
筒井康隆『バブリング創世記』(徳間書店、昭和53年)



(この記事は書きかけです。次回に続く)