文字が演じる書物の表情…その4

手描き文字の装丁掲載をもう辞めようとは思うのだが、ここまでやったらもう少し、あれも載せたいこれも載せたいと迷い、とうとう今日も掲載してしまいました。書き文字もやる装丁家で、大好きな司修の装丁を落とすわけにはいかない。三浦哲郎『冬の雁』(文藝春秋、昭和55年)、阿刀田高『風物語』(講談社、昭和60年)


もう一人、これが最後。「暮しの手帳」の編集者として知られた花森安治だ。福原麟太郎『人間世間』(昭和45年)、石川達三『生きている兵隊』(八雲書店、昭和23年)


●イラストなどに頼らず手書文字を主な表現手段とした装丁

手書文字を描くデザイナーはたくさんいるが、手書文字を主力武器としている装丁家はそうたくさんはいない。平野甲賀田村義也はそんな数少ない手書き文字を主力武器とした装丁をたくさん創作している。写真下、上段は2点ともに平野甲賀装丁、小林信彦『世間知らず』(新潮社、1988年)、装画=浜田智明。永田弘『箱舟時代』(小沢書店、昭和48年)。下段は田村義也装丁、金石範『1945年夏』(筑摩書房、1974年)




平野の場合は、FOUNT文字やイラスト、写真などとの組み合わせで、書き文字に頼らない装丁も多く多彩だ。が、田村は書き文字による装丁をこれ一筋とばかりに作ってきたといってもよい。そんな書き文字装丁一直線ぶりを田村義也『のの字ものがたり』(朝日新聞社1996年)に、自ら書いている。田村は花森安治と同様、装丁もやる編集者で、二人ともにその両方で頭角をあらわし活躍、装丁家としては希有な存在といってもよい。



そんな田村には装丁家としての田村を著した『のの字ものがたり』と、最近刊行された、編集者としての田村を知ることが出来る『ゆの字ものがたり』(新宿書房、2007年3月、3000円+税)がある。この2冊で、田村の仕事ぶりの全ぼうがよくわかる。


特に『ゆの字ものがたり』は、「やはり田村は編集者だったんだ」と思わせる編集者としてのこだわりや、著者との関わりが328頁にわたって語られており戦後出版史の断片を知る読み物としても読みごたえがある。巻末の「〈完全版〉田村義也装丁作品一覧(1953〜2003)」は1500ほどの装丁作品が記録されており労作といってもよい。これほどの装丁作品一覧がある装丁家は他にはないのではないかと、田村の人柄がさせるのか『田村義也 編集現場115人の回想』(田村義也追悼集刊行会、2003年)と合わせて人間関係の深さ、広さを思わせる。