手描文字の装丁家、田村義也と平野甲賀

【手描文字の装丁家田村義也平野甲賀
 田村義也平野甲賀も共に、主に手描の文字だけで装丁をするブックデザイナーだ。



田村の装丁本、安岡章太郎『感性の骨格」(講談社、1970年)や安岡章太郎モグラの言葉』(講談社、1969年)に初めて出会ったときは、レタリングの基本を無視した素人っぽいデザインだと思っていた。




ところがどっこい田村義也『のの字ものがたり』(朝日新聞社、1996年)には「…『軟骨の精神」はその前年歩いてきた沖縄の、海浜の砂をかたちづくっている骨のようなサンゴのイメージだった。
 それは海に洗われ風に吹かれて、角がまるくなり、小さな白骨のように見えた。ポケットに入れて大切にもち帰って机に並べていた。だから、どうもこのサンゴの曲線が気になって仕方がない。『軟骨の精神』という明朝体の角ばった漢字を、思いきって強引にデフォルメしてしまった。……すごく時間をかけ、何度も何度も変化させながら、やっとここまで辿りついたので、キュに出来たわけではない。……曲線によるデフォルメのやり方やフクロ文字のつくり方は、これらの本で身についたように思う。それから翌年の『もぐらの言葉』(講談社)、次の年の『感性の骨格』(講談社)と、しだいに、無茶苦茶なデフォルメになっていった。三冊とも、見返しにも、このデフォルメ文字を思うさまぶちまけてしまった。勝手なことをやり過ぎてしまい、安岡さんや編集者の諸氏にも申し訳なかったのだが……。このやり方は『私説聊斎志異』(安岡章太郎、1975年・朝日新聞社)まで続いた。しかし、一般にやってよいことと悪いことがあって、著者の性質、本の内容、著者との関係、出版社のカラーを考慮すると、なかなかのことで書き文字などをつくるわけにはいかないことはいうまでもない。書き文字は、私にとって、いつも不安である。」
 と、あの軟体動物のような文字も明朝体の「角ばった漢字」を基にしていたことを知り、手書きのタイトル文字の誕生話を知り、敬意の念を新たにさせられた。


 平野甲賀については後日書かせていただきます。