杉浦朝武(非水)「明星M37-1乱れ髪歌がるた

shinju-oonuki2006-09-21

「情熱の人 与謝野晶子展」の図録には、「乱れ髪歌がるた」の写真が24点掲載されていたが、全部で何枚作られたのかわからない。どこかに完全に揃ったカルタがあるのだろうか。見てみたい。


『明星』(明治37年正月号)に掲載されたのは、多色刷り石版画で四六倍版の1頁に、83×60mmで4点だけであり、この4点は偶然にも「情熱の人 与謝野晶子展」に掲載されているカルタとの重複がないので、少なくとも28点ある事が確認できた。おまけに「情熱の人 与謝野晶子展」に掲載されているカルタは、元のカルタとほぼ同じサイズで復元されているのは嬉しい。

選ばれ掲載されたカルタは
  うらわかき僧よびさます春の窓振り袖ふれて経くづれきぬ
  売りし琴にむつびの曲をのせしひゞき逢魔が時の黒百合折れぬ
  たまくらに鬢(びん)のひとすぢきれし音を小琴と聞きし春の夜の夢
  なにとなく君にまつたるゝこゝちしていでし花野の夕月夜かな
この4首だが、一体誰が選んだのだろうか。
絵は、左の2点が杉浦朝武(ともむ・非水)、右の2点が中沢弘光の作品でそれぞれ2点ずつ選ばれている。が、今確認できる28点の中でこの4点が果たして絵が美しいが故に選ばれたのかどうかは疑問が残る。短歌が優れているかどうかは、私にはわからないが、佐藤春夫『みだれ髪を読む』ではこの4首をかならずとも褒めてはいない。


与えられたスペースが76×27mmと極端な縦長の矩形なので、構図を決めるのはかなりむずかしかったのではないかと思われる。そんな中、左上の朝武作「たまくらに……」のカード絵はうまくまとめられている。


構図だけではなく、ハープ(竪琴)、キューピット、ハートと、当時としてはまだカタカナの言葉も使われていたかどうか疑わしい、輸入したばかりの最もコンテンポラリー(現代的)なモチーフを勢ぞろいさせている。


たまくらは「手枕」で、鬢(びん)は頭の左右側面の髪。春の夜に、手枕して月を眺めロマンチックな事を考えていたら、髪の毛が切れ、その音が小琴の響きのように聞こえた。とでもいう内容であろうか? とするとハートは月とロマンチックなイメージとの掛け言葉ならぬ、複数のイメージをダブらせる「見立て絵」の技法が使われている。このように絵に込めた意味の深さにおいても杉浦朝武は中沢弘光よりも一歩秀でていたように思える。