恩地孝四郎装丁『郷愁の花束』

shinju-oonuki2006-08-08

先日、アンディさんに教えていただいた 恩地孝四郎装丁、永田泰三『「詩集郷愁の花束』(自由詩社、1954[昭和29]年)を池袋の古書店から購入することができた。

恩地64才、亡くなる1年前の作品だが、晩年の作品というイメージは全くなく、むしろ清楚で若々しさえ感じる。扉(写真下」)に描かれた瀟洒カットもモダンで美しい。扉の裏面には木版用のバレンでこすったような光沢があるが、まさか木版ではないだろうか?

印刷学会出版部の上田さんから送っていただいた「印刷雑誌」27巻2号(日本印刷文化協会、昭和19年)に、恩地孝四郎「決戦下の装本」という檄文のようなエッセイが掲載されている。

戦時中でも高い意識を持つようにと、「茲に製本家の強度の才能の発揮が要求されねばならなくなる。その要求に應へて、畫を装ふ人たちよ、文化の低下を食ひとめるために挺身努力してほしい。また努力し映えある絶好の折ではないか。」装本家たちを鼓舞する激しい文章である。

また、物資の少ない戦時中だからこそ、木版画家らしく木版摺りの装丁を進めている。「先大戦の時ドイツの本には盛に木版が利用されゐる。無論活版に組み込んだり、単独書でも活版刷であるが金属重要時代、木版を活かすのもいい。但し木も大切である當節だが、印刷用の木版など分量もたかが知れてゐる。

但しこの木版畫はむろん畫家刻の木版で、その直裁簡潔な版画独特の味は戦時下の情勢としても好もしい。挿畫によし飾畫によし表紙によしである。」と。