お気に入り広川松五郎装丁本

shinju-oonuki2005-10-02

 
最近入手した広川松五郎の装丁本で最も気に入っているのが、大久保周八編集『巨人新人 普選代議士名演説集』(大日本雄辯會講談社昭和3年5月)。巻頭の序には「……言論の力は、つひに勝てり矣。曾つては、おぞくも、黄白の前に光をうしなってゐた辯舌が、和やかな陽をあびて、若草の萌え出づるが如くに、凱歌の叫聲の中に、伸びゆく力の偉いさをたたへてゐる。……三寸の舌を唯一の武器として、中原風靡の間に馳駆したる猛者である。」とある。
 
松五郎は、この言葉を視覚化したかのようだ。冬の時代から自由に発言できるようになりつつある時代を、草原を自由に走り回る動物に託して表現したのだろう。簡略化、抽象化されたモチーフは、アールデコ風の模様となって、新たな時代を感じさせる装丁表現に、見事に成功している。
 
この本は、2005年5月に東京古書会館で展示講演会をやった時に、地下で開催していたアンダーグランドで見つけたもの。買ったその日に、展示コーナーのガラスケースに収められた。ちょうどその時に、広川松五郎装丁本研究の第一人者と言われる高村美佐さんが、赤ちゃんを乳母車に乗せて、エレベータのない2階の会場に来てくた。この本は初めて目にするらしく興味深く眺めていた。文芸書ではないので、図書館などには保存されにくい本なのかもしれない。