【101冊の挿絵のある本（8）……山口将吉郎：挿絵、吉川英治『神州天馬狭』（大日本雄弁会講談社、昭和6年9月）の挿絵19点を紹介します。
新聞や雑誌に連載小説が発表される時、多くの場合には挿絵が付いていますが、単行本や全集にまとめ発行される段になると、挿絵が省かれてしまうことが多い。しかし、石井鶴三：挿絵『国定忠治』の子母沢寛や、小田富弥：挿絵『新版・大岡政談』の林不忘など多くの作家が、挿絵によってイメージがはっきりしたとか、広がったと証言していように、挿絵は連載小説の一部であるといってもいいのです。つまり、連載小説は文芸と美術のコラボレーションによって作り上げられた作品なのです。文字だけしか再録しない単行本は不完全としか言いようがありません。そんな中、すベてではなくとも挿絵とともに再録されている本こそは、真の連載小説の再録と言えると思いますので、ここでは、主に連載小説が挿絵付きで単行本になった本を紹介する意味で、挿絵を紹介していこうと思っています。
◆山口将吉郎（やまぐち しょうきちろう）明治29（1896）-昭和47（1972）年
明治 29 年、山形県鶴岡市で旧氏族の家 に長男として生まれる。少年時代に絵画に 親しみ、周囲の反対を押し切って上京。東 京美術学校では、結城素明に師事し日本画 を学ぶ。卒業後、研究科に残る。絵画展覧 会に本画を出品するかたわら、先輩の縁故 で同人誌などで挿絵を発表する。 関東大震災後、大正 13 年に「幼年の友」 口絵挿絵を描き「、日本少年」にも寄稿した。 翌 14 年、高畠華宵事件のあと、華宵が「日 本少年」に移った後の「少年倶楽部」大正 14 年 1 月号に吉川英治「武田菱誉の初陣」 で初登場し、精確なデッサンに基づく密描 画で武者絵画家の名を馳せた。これが評価 され、4 月号から高垣眸「龍神丸」の連載 をまかされる。さらに昭和 3 年まで続いた 吉川英治の長篇「神州天馬侠」で人気を不 同のものとした。吉川英治の作品には吉川 英治作家デビュー翌年の大正 14 年から昭和 15 年まで、昭和8年を除いてほぼ途切 れることなく「ひよどり草紙」(「少女クラブ」 大正 15 〜昭和 2 年)など18 作品の挿絵を 描いており、名コンビといわれた。 「日本少年」「少年世界」などの少年少女雑 誌をはじめ「キング」「富士」「講談倶楽部」 などの雑誌でも活躍。野村胡堂『馬子唄 六万石』(日本正学館、昭和 23 年)、伊藤 佐喜雄『保元・平治物語』(同和春秋社、昭 和 26 年)、中沢径夫『神変黄金城』(偕成 社、昭和 29 年)など 精緻なデッサンにも とづく華麗な武者絵や、馬にまたがる武者 絵を得意とし緻密で正確な鎧兜の表現や躍 動感あふれる画面構成で人気を博した。画 集『山口将吉郎画集』(講談社、昭和 50 年)、 『山口将吉郎名画集 : 躍動する騎馬武者の 世界』(講談社 、昭和 59 年)などがある。 昭和 47 年逝去。享年 76 歳。
